「軽井沢!」
「ひっ……!」
子供のように身を縮ませて怯えている。
正気に戻ったか、と肩を撫で下ろす。
「大丈夫か、軽井沢?……ああ、左手か?こんなのは大丈夫だ、今の医療は凄いからな病院に行けばすぐにくっつく」
血をポタポタと滴る黒瀬の左腕を見て震えている軽井沢に冗談めかして笑みを見せる黒瀬。
怯えている軽井沢を落ち着かせようと必死だった。
だから、軽井沢の手に未だ包丁、骨喰いが握られている事に気付かなかった。
「あぁ……!ぁあーーーっ!」
立ち上がると錯乱状態のまま、体ごと突っ込んで来る軽井沢。
反射的に短刀を右手に握り込もうとして、止めろ!と教師である黒瀬が叫ぶ。
「くっ!」
片腕でもなんとかなる、いやせねばならない!
(クロセ!?何があったの!くっ!お前はライダー……!)
黒瀬の異変に気付いたキャスターからの念話が途絶えた。
「キャスター!」
意識が一瞬逸れたその瞬間。
ぶすり、と骨喰いが黒瀬の腹に刺さった。
ぐりぐりと強引に骨喰いが引き抜かれ、もう一刺し、二刺し、三刺し。
恐慌状態のまま、軽井沢は黒瀬を刺し続け、いつしか黒瀬の息が途絶えた事に気付いたのか力が抜け、地面に膝をつけた黒瀬の体を横目に呆然としたまま軽井沢は立ち去った。
「ああ……くそ、なんてこった。まさか、軽井沢がライダーのマスターとは……クソッタレ、体が痛ぇ、息するだけで痛ぇ」
黒瀬は辛うじて息があった。
残った右手で顔を拭う、今まで令呪から感じたキャスターの気配がない。
「ライダーにやられたかキャスター……」
痛みに耐えきれず仰向けになる。
キャスターに教えられた万が一の手段、令呪の魔力を再生能力の活性化に回しているが、ダメそうだ。血を流しすぎたか。
すまない、キャスター。君に教えて貰った事を全て無駄にしてしまった。
最後の力を振り絞り、短刀を溝に投げ捨てる。
こんな時に限って星が綺麗に見える。
ああ、まだ1学期も終わってないのに、何故軽井沢が私を刺したか聞いて、軽井沢を止めねばならないのに。
……お前達は気を付けろ、栗野、十影。
体が動かない。頭が、働かない。目が…見えない。耳が、何も…………