「……分かった。ランサーには、私がマスターって言う自覚が無いのね。」
「そう言う事なら、早く私を認めさせないと。」
「?……待て、何故そうなる?」
「あなたがそう言ったんですぅー。」
「???」
怪訝な顔をするランサーを尻目に、言葉を続ける。
「……でも困ったな。真名が分からないと、あなたがどれぐらい強いのかも分からないから。」
「それならば問題ない。貴方がマスターであればな。」
「(……契約(パス)を介して供給されるこの魔力量……彼女が卓越した魔術師である事に疑いの余地はない)」
「(見た目は若いが、才能も実力も申し分ない。私も全力をもって戦えるだろう。……精神面が如何かは、今は判らないが……)」
「─────ふーん。」
こちらを信用してるんだか、信用してないんだか。……いまいち真意が掴み取れないサーヴァントだが、それでも問題無いと言う程度には、腕に覚えがあるということだろう。
ならば私はマスターとして、彼を思う存分に使うまでだ。
「ならランサー。さっそく仕事があるんだけど。」
「早くもか。良いだろう、ただ私は貴方の槍として、道を阻む障害を─────」
ランサーが決め台詞を言うか言わないかといううちに、私はクリップどめされた大量の書類と電卓を渡した。
「────────ん?」
「うち、花屋やってるの。それ今月分の収支。朝までに計算しておいてくれると助かるな。」
「─────────」
呆然とすること十秒。
ようやく思考を取り戻したランサーは、地下室から出ようとする私を急いで呼び止めた。
「……百合、これは……」
「使い魔、でしょ?寝なくても良いのは知ってるんだから。私は明日に備えて寝るけど、よろしくね。」
「それは、そうだが……」
「マスターは私。貴方はサーヴァント。いい?」
ここまで言ったら流石に反論も出来なくなったと見える。黙って机に向かって書類を広げ始めたのを確認すると、私は二階の自室に戻って行った。
……私がマスターって事は、まず分からせられたかな。