陶磁のように白い肌が見えた。次には燻んだ銀の頭髪。その閉じた目蓋が徐々に開かれると同時に、璧玉のような蒼色の瞳が顕となる。
それは男だった。人形のように無機質な、然し憂いを含んだ表情。中世欧州然とした鎧に身を包み、手には鳥のような意匠の施された長大な獲物。
「───────」
私は未だに、眼前の出来事が現実かどうかを測り兼ねていた。自ら信念を持って喚び出した筈の使い魔。
それが圧倒的な存在感と共に目の前に顕現した事に対し、動揺を隠しきれなかった。
まるで人間と大差ない。……否、それは違う。
間違いなく、目の前に在る”これ”は、圧倒的な魔力の塊だ。人間の姿をしているけど、人間以上の”亡霊”であることに、疑いの余地はなかった。
「───────」
圧倒されているうちに、サーヴァントは完全にこちらを認識した様だった。
手に持った獲物を狭い室内で器用に振り回し、石突を床に突き立てる。
鋭い金属音が室内に響き渡ると共に、私も我に帰る。それと同時に、この男が口を開いた。
「……サーヴァント、ランサー。召喚に応じ参上した。」
「……ランサー……」
男の言葉を反芻する。
最速の英霊とも呼ばれるランサーは、聖杯戦争に於いても有力な三騎士のクラスの一端だ。
セイバーで無かったのは少し残念だが、何が出て来るか分からない状態で喚び出されたクラスとしては、十二分の成果と言えるだろう。
「貴方が、私のマスターか?」
凝として此方を見据えるランサーが私に問いかける。またしても思索に意識を奪われていた私は目の前のサーヴァントに意識を戻し、はっきりと返答した。
「───百合。栗野百合。」
「あなたを喚び出したのは、私……。」
首元を晒して、右肩の令呪……マスターとしての象徴を見せながら言う。
「……良いだろう。」
納得したような、納得していないような調子で淡々とそれを認めたランサーは、その宝石のような双眸をこちらに向け、問い掛けるように言う。
「百合。私は今より、貴方の槍と成ろう。」
「但し、共に戦い抜く覚悟が有る限りに於いては……だがな。」
まるでこちらを見透かしているかのように、試すような言葉を投げ掛けてくる様に、少しどきりとさせられる。
やはりサーヴァントはサーヴァント。人智を超えた存在である以上は、こちらの些細な悩みなども手に取るように分かるという事だろうか。