召喚:ランサー
2020/07/17 (金) 09:36:55
「閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。
繰り返すつどに五度。ただ、満たされる刻を破却する」
「────Αρχή(セット)」
私の中にある、形のないスイッチを入れる。
体の中身が入れ替わるような感覚。
通常の神経が反転して、魔力を伝わらせる回路へと切り替わる。
これより栗野百合は人ではなく、ただ、神秘を成し得る為だけの部品となる。
「────ッ」
身体が熱い。
大気に満たされるマナが肉体に吸収され、私の身体を満たし、同時に崩壊させるような感覚。
魔術回路である私を、私の肉体が拒絶する。全身を刺す、這いずるような痛みに目を瞑り、汗を流す。
しかし同時に─────そこには、確かな手応えがあった。
正直に言って、私はこの瞬間まで怖れていた。魔術の道を歩むことを。戦争に参加することを。
でも、もう後戻りはできない。今の私はただ魔力を注ぎ込む電源として、召喚陣というシステムを稼働させるだけだ。
「──────告げる。汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。
聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ。」
視界が閉ざされる。
血の滲むような声で、言葉を最後まで紡ぐ。
「誓いを此処に。
我は常世総ての善と成る者、
我は常世総ての悪を敷く者。
汝三大の言霊を纏う七天、
抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ───!」
──────閉じた網膜の向こうで、眩い閃光が弾けるのを感じた。
乱舞するエーテルの濁流の中にあってなお、私はその向こう側に何かが現れた感覚というものは無かった。
徐々に視覚が回復する。私の目にはその時、暗い地下室の景色すらもまばゆく鮮烈に映っていた。
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