召喚:ランサー
2020/07/17 (金) 09:36:29
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深夜。
時計の針は2時を指している。
念には念を入れて、時報で確認もしたから間違いない。
これが私にとって、最も波長の良い時間だった。
「───消去の中に退去。退去の陣を四つ囲んで召喚の陣で囲む……」
地下室の床に陣を刻む。
サーヴァント召喚にさして大きな儀式は必要ない。
聖杯が勝手に招いてくれる。マスターは彼等に魔力を提供するのが第一。
「───素に銀と鉄。 礎に石と契約の大公。
降り立つ風には壁を。 四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ」
本来なら血液で描くところだが、今回は魔力を与えて育てた薔薇の染液で。
咲く意味は「結合」。少しは縁になってくれると良いが……実質的には験担ぎのようなものだ。
「閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。
繰り返すつどに五度。ただ、満たされる刻を破却する」
「────Αρχή(セット)」
私の中にある、形のないスイッチを入れる。
体の中身が入れ替わるような感覚。
通常の神経が反転して、魔力を伝わらせる回路へと切り替わる。
これより栗野百合は人ではなく、ただ、神秘を成し得る為だけの部品となる。
「────ッ」
身体が熱い。
大気に満たされるマナが肉体に吸収され、私の身体を満たし、同時に崩壊させるような感覚。
魔術回路である私を、私の肉体が拒絶する。全身を刺す、這いずるような痛みに目を瞑り、汗を流す。
しかし同時に─────そこには、確かな手応えがあった。
正直に言って、私はこの瞬間まで怖れていた。魔術の道を歩むことを。戦争に参加することを。
でも、もう後戻りはできない。今の私はただ魔力を注ぎ込む電源として、召喚陣というシステムを稼働させるだけだ。
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