召喚:ランサー
2020/07/17 (金) 09:35:36
「なんだ百合!今日はもう帰るのか?」
放課後。3-Aの教室を出がかりに、聴き慣れた声に呼び止められた。
心地よく低い声に反射的に振り返り、私は声の主に微笑んで言う。
「うん、今から帰るところだよ。定休日だけど、用事があるから」
「そうか。バイトも無しに一人でやってんだもんな。大変だなぁ。」
「園芸部で育ててたハイビスカスが開花したんだよ。一番に見て貰いたかったんだけどなぁ」
この子は絹留雅美。
学校の中でも、私の親友と呼べるだけの関係だ。周りからは粗野で凶暴のレッテルを貼られている……いわゆる不良生徒。『園芸部の女帝』とか呼ばれているらしい。
なぜか私とはかなり波長が合うらしくて、花を求めて店に来てからは指数関数的に仲良くなっていったっけ。
たぶん、心ねが似てるのかもしれないけど。
「ほんと!?ハワイアンだったよね!見たかったな……」
「仕事なら仕方ねえよ。また明日見に来な。一日しか咲かねえわけじゃなし」
「……うん、そうする。じゃ……」
「おう、またな!」
そういって彼女は、私の言う「用事」を店の事だと思って、気を遣って送り出してくれた。
このように、とても優しい子なのだ。側から見ている限りでは怖いところもあるかもしれないが。
私にとっては、日常のシーンの象徴。魔術師という身の上からすれば、一般人とあまり深い仲になり過ぎるのは良くないけど……
思ったより、仲良くなり過ぎちゃったかも。
……自分でも無意識のうちに、自棄になっているのかもしれない。
そんなことを考えながら、それ以来は誰とも話さず家路につく。私は日常に生きる栗野百合ではなくなる。
残りの半日。今日は、今日こそは完全に、非日常の栗野百合に切り替わらなくてなならない─────
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