「美しい? へぇこの姿を見てもそれが言える?」
俺の余程のアホ面が彼女の加虐心を刺激したらしい。
それまでのどこか達観していた表情からなぶっていい獲物を見つけた獣のように表情が変わった。
いや、表情だけではない。人の姿から徐々にすべてが蜘蛛へと変わっていく。
ああ、だが。だが、それを見ても不思議と彼女を化け物だと思う気にはならなかった。
「この蜘蛛の姿でも?」
蜘蛛の牙が目前に迫る。
「ああ。何故かな。元々虫は嫌いじゃないが」
「……変人?」
俺の言葉に彼女は顔を離した。
蜘蛛の姿だが、引いているのが分かる。
「…………失礼。今のは、今のは忘れてくれ」
そこで急に冷静に戻った。
頭を下げ、刃を納める。姿こそ異形だが、少なくとも話は出来るようだ。
「変なのに召喚されちゃったなぁ」
「君に言われたくないがな」
此方に敵意はないと判断したのか、人の姿に戻った。
軽口に対して言い返す。
「で、結局君は何者だ?」
「ああ、クラス? キャスターよ、あの姿も見せたから真名も分かるでしょう?この国だと土蜘蛛とかってのがいるんだっけ」
「クラス?キャスター?真名?」
参った。何を言っているか分からない。
キャスターと言うのが、彼女の真の名を隠す為のものであることは察することが出来たが。
「貴方が呼んだんでしょ、聖杯戦争に?令呪もあるし」
キャスターが俺の右腕を指差した。
見るといつの間にか魔力に満ちた紋様が刻まれていた。
「あー……もしかして素人さん?」
物珍しそうな目で紋様を見ていた俺に気付いたのか、キャスターが問い掛ける。
「半分正解だ。……聖杯戦争とは魔術師同士の戦闘とばかり思っていた。そうか、俺が参加者の一人になったのか」
「じゃあ最初から教えなきゃダメかぁ……」
「すまないが、よろしく頼む」
先が思いやられるなぁ……キャスターはため息を付く。
流石にため息をつきたいのは此方だ、と軽口を返す気にはならなかった。
真っ先によりにもよって期末テスト真っ只中だぞ、どうするんだ?と思った私はまだ教師であるらしいと思いながら。