素に銀と鉄。 礎に石と契約の大公。 降り立つ風には壁を。
四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ。
閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。
繰り返すつどに五度。
ただ、満たされる刻を破却する。
告げる。
汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。
聖杯の寄るべに従…
そこまで読んで妙に嫌な予感がした。
これ以上は取り返しの付かない事になる。
そんな胸騒ぎを感じ、ノートから指を外し、机から離れる。
辺りを見渡せば、足元に召喚用の魔方陣が描かれている事に気づいた。
触れては不味いと一歩退く。
退いた拍子に机に置いてあったガラス片に指が当たり指を切る、数センチほど深く切った。
「……っ!」
慌てて指を抑えるが血が飛び散り、召喚陣へとかかった。
瞬間、まるで数年ぶりに動く機械のようにそれは鈍い光を放ち始める。
「まさか、血を切っ掛けとして儀式が起動したのか!?」
直感が叫んでいる、これは止められない。
一瞬、すぐさま逃げ出す事も考えたが、この召喚陣から呼び出されるものを放っておくわけにはいかない。
俺が呼び出してしまったものなら始末は自分の手でつけなくては。
ウィンドブレーカーのフードを外し、右手で左腰に差していた短刀を抜く。右手がやけに熱く感じた。
召喚されたと同時に急所を狙って切りつければ最悪でも相討ちには持ち込める。…筈だ。
召喚陣の光が収束し、衝撃が疾った。
「……来る」
本能的な怯えから来る震えを理性と意識で抑え込む。
今更何をビビってる?化け物と相対したのは一度や二度じゃないだろう。
呼吸を整えろ、意識を集中しろ、俺は目の前のものを切り捨てる刃だ。
衝撃が止んだ時、召喚陣の上に何者かが立っていた。
粉塵に目を細めて辛うじて見えた後ろ姿は菫色に染めた修道士風のローブ。フードの横からローブと同じ色の長い髪が見えた。
少なくとも人型ではあるらしい。
「……何者だ」
唾を飲み込み、乾いた喉を潤すと警戒は解かずに誰何する。
「何者か、とは随分な言い方だね、自分で呼んだのに」
それは振り向くとフードを外す。
菫色の髪が揺れ、どこか愉快そうに赤い瞳がこちらを見据えていた。
「美しい……」
何を言ってるのか。
きっと俺は頭がぶっ壊れたに違いない。
くそっ、どうにかなりそうだ。或いはもうどうにかなっているのか。