───────────2009年、7月3日深夜。土夏市旧土夏の廃墟
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人生とは後悔と反省の連続である。
誰が言ったわけではない、個人的な持論だ。
人は自分の行いに後悔して、反省をして、また何かをやって後悔する。
そうやって少しずつ後悔や反省を減らすわけだが、中にはわかっていても行動して後悔や反省の回数を減らせない者もいる。
具体的に言えば自分だが。
今の自分の心境は絶賛後悔中だ。
再従兄弟の頼みに応じて18年前の聖杯戦争について調べはじめたのはいい。
成果はあった。参加したと思われる人間をある程度(とは言っても数十人はいるが)絞る事が出来たし、18年前の土夏大火災が聖杯戦争を起因とするものであるという確証に近いものを得ることか出来た。
そして、そこから逆算して土夏市で数十年おきに奇妙な事件が起き続けている、つまりは聖杯戦争が行われているということも。
しかし、図書館や区役所で調べた資料だけでは満足出来ずに、調べあげた聖杯戦争の跡地と思われる場所に来たのは完全に誤りだった。
まさか、推定ではあるが魔術師の工房を見つけてしまうとは。
正確に言えば工房のような場所ではあるが。
土夏大火災によって被災した旧土夏。
旧土夏には18年前の土夏大火災で焼失したり、廃墟となった家は少なくない。
特に相続人が見つからず土地や廃墟には手をつけられず未だに廃墟が取り壊されていない場所さえある。
そんな旧土夏の一角、かつては住宅地であった場所にそれはあった。
それは聖杯戦争の参加者、或いは参加さえも出来なかった脱落者と思われる人物の邸宅。
18年前の土夏大火災直前に不審死を遂げ、しかも捜査が不自然に打ち切られている人物。
おそらく聖杯戦争絡みだろうと当たりを付けた俺は足を伸ばし、旧土夏まで来たわけだ。……期末テストの真っ只中に。
そろそろ忙しくなると言うより忙しいので、遠巻きに調査して適度な所で帰ろうとしていた俺は何かに呼ばれるような感覚を覚えた。
躊躇はしたが、結局は邸宅の跡地に足踏み入れてしまった。
そこで見つけたのは入念に隠された地下室の入り口。おそらくは人払いの結界が何かの切っ掛けで崩壊したのだろう。
地下室には火災が及ばなかったのか、中はおそらくは当時のまま残されていた。
室内は意外と広かった。およそ5畳程の空間にはクモの巣があちこちに張られており、木の机に椅子、パイプラックに何らかの薬品や呪物、本が置かれている。
こんな封鎖空間で良く生きていた物だと感心する。見れば害虫、黒くて早いあいつを餌にしていたようだ。
一見しただけではただの作業用の地下室にも見える。しかしそこに立てば、魔術の触りだけ知っている程度の俺でも分かる異質な雰囲気、人を拒絶する空間、魔術師の工房がそこにはあった。
最もしっかりした工房ではない。
どこか素人くさい、或いは突貫工事の仮の工房といった印象を感じた。
折角ここまで来たのだ、半ばヤケになって何か手がかりはないかと探る。
机の上にはノートと古文書のようなものが置いてある。
大半は掠れて読めないが、ラテン語や英語、日本語が混在しているようだ。
「……術式……英霊召喚…? サーヴァント?」
辛うじて読める文字に指を這わせる。どうも何かを召喚する際の手順のようだ。