kagemiya@なりきり

第五次土夏聖杯戦争SSスレ / 20

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「」んかくん 2020/06/15 (月) 00:19:33


「――――――」
不意打ちだった。庭の薔薇にも負けないほど流麗で愛らしく、胸を打つ仕草だった。
そのまま見つめられ続けていると何かボロが出てしまいそうな気がして慌てて目の前の猫へ視線を戻す。
「そ、そうかな。この庭は広いし外のコンクリートの上よりは涼しいからここにいるだけかもしれないよ」
話を誤魔化すように俺は食事を終えて顔を舐めていた黒猫の額へ向けて手を伸ばした。
猫は伸びてくる俺の手をじろりと睨みつけると―――
「あっ」
セイバーがやや気の抜けた声を上げた。
俺の指にがぶりと噛み付いた黒猫は器用に前足2本で俺の手を保持して何度も牙を立てる。
その間、俺の指には丸い小さな穴が刻まれていくのだった。ちなみにちょっと痛い。
「ま、マスター!噛まれています!止めなければ!」
「うーん。これ甘噛みってやつじゃないのかな。かわいいよね」
「これは獣の甘噛みではありません!それは相手の身体に傷をつけたりしないのです!」
「そうなんだ………。猫なんて飼ったことないから、てっきり。介抱した時からずっとこうなんだよね」
噛んだり、引っ掻いてきたり。黒猫は俺の指に開いた穴から流れ出る血をそのざらついた舌でぺろぺろと舐めていた。
なんだかまるで血を啜っているかのようだ。まあ猫は肉食性の生き物だからそういうものだろう。ちょっとくすぐったい。
「いけませんマスター………!こら、マスターはあなたの命の恩人なのだろう?無体なことはするものではない」
そう言って猫を叱りつけながら、脇の下を両手で支えてひょいとセイバーが黒猫を抱えあげる。
俺の指を噛んだり舐めたりすることを中断させられた黒猫は不服そうに唸ったが、ちらりとセイバーを一瞥すると大人しくなった。
されるがままにだらんと身体を垂らし、セイバーが抱きかかえるのに任せている。首の下を軽く撫でられるとごろごろと喉を鳴らした。
………俺とは全然対応が違うじゃないか!俺に向けた牙や爪はなんだったんだ!
「ふむ、おとなしいですね。こうして近寄ってくるのだからマスターの事を嫌っているのではないのでしょうが。
 いいかい、もう彼のことを噛んだりしてはいけないぞ?義は義で返すのが正しい筋というものだ」
セイバーがそうやって諭しながら頬や額を撫でると嫌がる素振りも見せずに尻尾をぶらぶらと揺らしていた。
くそう。やっぱりセイバーが美人の女の子だからそういう反応をするのだろうか。
俺は臍を噛むような思いをしながらセイバーが黒猫を可愛がる姿を見守るしかなかった。

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