「なんで貴方がトエーの家に居るの?クロセ?」
一見すれば少女といっても通じる見掛けの魔術師、ニコーレは思わずその美しい顔立ちを苦虫を噛み潰したように歪ませて目の前の男に吐き捨てるように言った。
「何故、何故か……君の魔術で俺…私の両大腿骨が折れ、逃走しようと縮地を使おうとして骨が完全に砕けて十影に助けられたからという答えでは不満かね?」
その男、黒瀬正峰はニコーレの表情や態度など意に解さないかのように淡々と答える。
黒瀬はソファーに横にされており、その両足は太ももから下がギプスでガッチリと固定されていた。
「私のせいって言いたいわけ?重傷なら自分のサーヴァントに背負って貰って病院に行けば良いじゃない」
「ははは……面白いジョークだ。実践したら私は明日には変死体として見つかるだろうね。……まぁ実際帰りたいのは山々だが、こんな深夜ではタクシーも捕まらんし、手負いの俺は他のマスターからすれば良い獲物だ。俺も命は惜しい、悪いが帰らんぞ」
黒瀬はニコーレの皮肉に愛想笑いを浮かべると、もう会話をするつもりはないと言わんばかりに顔を背けた。
黒瀬とニコーレは聖杯戦争の敵対者として数日間幾度か刃を交えていた。
これまで決着はつかず、お互い後に残る傷はなかったのだが、つい数時間前の戦闘で黒瀬が負傷。
その数分後には決着がつく筈だった。
それを遮ったのはニコーレと同盟を結んだ黒瀬の教え子である十影典河と栗野百合であり、不倶戴天の敵だった二組がこうして一時的に休戦。
十影邸に避難しているのも典河の意向(実力行使で二組を止めたのは百合)によるものだ。
意地を張って退けない32歳と24歳が17の少女にただただ正論でガチ説教される様はやる気だったサーヴァント達ですら居たたまれなくなるほどだったという。
とそこへ家主である典河が戻ってきた。
典河は二人が言い争いでもしていると思ったのか、思いの外静かなことに不思議そうに首を傾げる。
「……あれ?もしかして二人は以外と仲がいいのか?」
「「良くない」わよ!」
(やっぱり仲良いじゃないか……)