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下校時間を過ぎて校内に残っている生徒がいないな確認するのは部活の顧問をやっていない黒瀬の仕事だった。
各クラスを回って居残りがいないか、確認する。たまにおしゃべりが楽しくて居残っている生徒がいれば帰るように促す。
そして、自身の受け持つクラスにたどり着いた。
扉に手を掛けた瞬間、中からの人の気配に気づいた。……思わず身構え、臨戦態勢に入る。
埋まれた時から染み付いた悪癖だ。
深呼吸をひとつして意識を切り替え扉をあける。
「おーい、誰か残っているのか?」
「あ……黒瀬先生」
そこには夕焼けと似た色の髪の青年、自分の机に座る十影典河の姿があった。
「十影? 忘れ物か?」
松山に言ったことは嘘ではない。黒瀬は確かに十影は友人である八守と共に学園の門を通ったのを確認していた
その二人が教え子であり、魔術師見習いとどこかの組織に所属していない魔眼持ちという事で校内にいる限りは出来る限り気にするようにしていたからだ。
「ええ、実は宿題を……」
「そうか、熱心なのは構わないが、もう日が暮れるぞ」
何かがあったかと一瞬いぶかしむが、少なくとも自分の事情に踏みいられる事を十影は望んではいない。
喘息だったからか、独り暮らしをしているからか、自立心の強い青年で誰かの手を借りるという事を極端に嫌がるところがあった。
保険委員の姫島円と少し揉めたのは記憶に残っている。幸い二人は友好な関係を築けたようだが。
「ごめんなさい、今帰ります」
既に帰り支度を整えていたのか、鞄を手に立ち上がる。
「ああ、…………気を付けて帰れよ、最近はその、物騒だからな」
何故か胸騒ぎがして途中まで送っていこうか?と言いそうになったのを飲み込む。心配ではあるが、それは十影の自尊心を傷付ける事になる。
「はい、何かあったら学校に逃げ込みますよ。先生もいますしね」
笑みを浮かべると、頭を下げて教室から出ていく十影。
「…………ふむ」
少なくとも信頼はされているらしい。
嬉しさとあの態度は過保護過ぎるか、などと考えながら黒瀬は次の教室へと向かうのだった。