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───────2009年、6月初旬夕方。火蜥蜴学園。
梅雨の季節、朝から降っていた雨は昼過ぎには止み、澄色の光が火蜥蜴学園の廊下を照らしていた。
部活終わりに帰宅する生徒達とすれ違い、各々挨拶を返しながら黒瀬は自身の受け持つ2年C組の教室へと向かっていた。
「あ、黒瀬先生!」
後ろからの声に振り向くとそこには見知った三人組の姿があった。
松山茉莉、竹内太桜、梅村海深。松竹梅、などと呼ばれることもある黒瀬の受け持ちである三人の女生徒だった。
松山が手を振りながら黒瀬に向かい歩き、少し離れて竹内はペコリと頭を下げている。……梅村は竹内の後ろに身を隠すような姿勢だったが、黒瀬と目があったのに気付き静かに会釈をする。
梅村海深はどこか黒瀬に苦手意識があるのか、距離を取っているようだった。
それは黒瀬も知っているが、何か問題があるわけではなく無理に距離を詰める必要はないと考えていた。
だが人として何が悪かったか、程度に気にする機敏はある。
早い話、珍しく人並みに傷ついてはいた。
「珍しいな、松山。部活終わりか?」
「ボクは先生と違って忙しいからね」
「確かに部活の顧問はやっていないが、代わりに先生方の雑務を引き受けている。決して暇ではないぞ」
と、松山がキョロキョロと誰かを探しているよう様子に気付く。
「誰かを探しているのか?」
「……凄いね、分かるんだ」
「これでも教師をやって大分長い。十影か?」
驚く松山になんの事はないとでも言わんばかりに答える。実際には人の表情を読むのは裏の顔で培ったものだが。
「十影なら八守と下校しているのを見かけた。もう校内にはいないだろう」
「あー……だってさ、海深!」
「太桜ちゃん、声大きいよ……」
二人の様子、梅村の表情からおおよその推測は付くが、口に出しては野暮と言うものだろう。黒瀬ははて?と首を傾げて見せた。
「ほら、下校時間はもう過ぎてる。帰るぞ、二人とも。黒瀬先生失礼します」
「しかたないなぁ、さようなら先生」
「し、失礼します」
「ああ、さようなら。気をつけてな」
三人の後ろ姿を見送り、再び教室へと向かう。