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「…………嘘をつくのは止めなさい!!」
先生の怒鳴り声に驚き、黒瀬の肩がピクリと動いた。
「なんで、嘘だって疑うんだよ」
意図的に声を震わせる、出来るだけ繊細な思春期の少年を装う。
「それ、他の人には通じても私には通じないわよ、黒瀬くん。 何しろ私の方が嘘つきだから」
座り込んだ黒瀬の肩を掴み、じっとその眼を見つめる。
黒瀬の心臓の鼓動が早まる。嘘を見抜かれたからか、それとも
「私は貴方が何をしてるか大体把握してるけど、それを糾弾するつもりはないの」
眼を真っ直ぐに見つめて先生は続ける。
「貴方が学校に来ないのも、家に帰らないのも貴方の意思ならそれでいいとさえ思ってる。ただ、自分に嘘をついて逃げるのは止めなさい」
「おれは、別に嘘なんて……」
まるで心の奥底を見抜かれたようで、思わず口ごもる。
「それがまず嘘。 ……黒瀬くん、貴方に言いたくない、言えない事情があるのはなんとかなく分かる。それを人に相談出来ないことも」
「でも今の貴方は周りが気に入らないから好き勝手してるって自分に嘘をつき続けてる。 黒瀬くん、嘘って言うのはね、人だけでなく自分も傷つけるのよ」
「センセー……俺、どうしたらいいかわかんねぇんだよ……家にいても学校にいても街にいても誰も俺を、俺自身を見てくれねぇ……俺、どうすりゃいいんだ?」
先生の真っ直ぐな眼に堪えきれず遂に眼を反らした。
感情が溢れ出て涙が出てくる。
「黒瀬くん……………甘えるな!」
ばちん!と平手が一発
「…………はぁ!?なんで!?」
「貴方の事情を相談しないんだからどうすればいいかなんて私に分かるわけないでしょ!」
思わず仰け反って混乱する黒瀬に先生は続ける。
「まずは話せる範囲で話して見なさい!そして一個一個解決法を探るの!ほら、立ちなさい、夕飯もまだでしょ?奢るわよ」
右手を黒瀬に向かい差し出す。
「……無茶苦茶言うね、『先生』。何奢ってくれるの?」
少し考えて、先生の手を掴む。
この人はきっと自分の事情なんて分かりもしない、でも先生は自分を見つけて話してみろと言ってくれた。
なら、話してみよう。全ては無理でも少なくとも多少は解決の手助けをしてくれるかもしれない。
「ラーメン!餃子もつけていいわよ!」
「半チャーハンは?」
「……まぁ、いいわ」
黒瀬の顔に久しぶりに心から笑みが浮かんだ。
はじめて信頼してもいいと思える大人に出会った気がした。