仏道の『阿頼耶識システム』

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法介 2024/11/15 (金) 18:44:02

『成唯識論』巻第二の次の句を解説してください。諸の有情の所変格別なりと雖も、而も相の相似して、処所に異なること無し。衆の灯明の各の遍じて一に似るが如し。

『成唯識論』巻第二にあるこの句は、唯識思想の中心テーマである「心が外界をどのように構成するか」や「個々の有情(生きとし生けるもの)の心が作る世界の共通性」を解説する部分です。この教えは、私たちが共有する世界が、実際には各有情の心によって構築されながらも、統一された現実のように見える仕組みを説明しています。


句の逐語的解釈

1.「諸の有情の所変格別なりと雖も」

  • 諸の有情:多くの有情(心を持つ存在、生き物)。
  • 所変:各有情の心が生み出した外界の現象。
  • 格別なりと雖も:それぞれの有情が生み出す現象には個別性がある。

解釈:有情が心によって作り出す現象は、有情ごとに異なっている。それぞれの業(カルマ)や心の働きに基づいて、個別の「所変」が起こる。


2.「而も相の相似して、処所に異なること無し」

  • 而も:しかしながら。
  • 相の相似:その現象(所変)は互いに似通っている。
  • 処所に異なること無し:それが現れる場所や空間には違いがない。

解釈:有情がそれぞれ作り出す現象には独自性がある一方で、それらは似通った性質を持ち、同じ空間で共有されている。例えば、多くの人が「同じ世界」に住んでいるように見えるのは、この相似性による。


3.「衆の灯明の各の遍じて一に似るが如し」

  • 衆の灯明:多くの灯明(ランプや光源)。
  • 各の遍じて:それぞれの灯明が光を広げる。
  • 一に似る:その光が重なり合い、統一された明るさに見える。

解釈:この比喩は、多くの有情がそれぞれの心で作り出す現象が、互いに調和し、一つの現象として見える仕組みを示しています。灯明が個別に光を放っても、部屋全体の光が一つのように見えるのと同じです。


唯識思想における背景

唯識学では、「三界唯心」(三界はすべて心の働きによって生じる)という考え方が基本です。この句は次の二つを説明しています:

  1. 個別性と共有性の統合
    • 各有情の心がそれぞれの世界を作る(個別性)。
    • しかし、それらは相似しているため、一つの現実のように見える(共有性)。
  2. 共通現象の仕組み
    • 個々の心が作る現象が統一された世界のように見えるのは、共通したカルマ(業)や心の性質に基づいているからです。

この考えは、私たちが「客観的な現実」と思っているものが、実際には「主観的な心の投影」によるものだという唯識の哲学的洞察を伝えています。


現代的な視点での例え

この教えは、現代の認知科学や心理学とも関連があります。たとえば:

  • 主観的な現実:それぞれの人間は、自分の経験や認知に基づいて世界を理解しています。
  • 共有された現実:一方で、社会的な約束事や自然法則のように、私たちは多くの点で同じ現実を共有していると感じます。

これは、個人の認知(灯明)とその集合(全体の明るさ)が、どのように調和して統一された現実感を生むかを説明しています。


まとめ

この句は、有情の心が生み出す現象が個別的でありながら、似通った性質を持ち、共有される仕組みを説明しています。その核心は次の通りです:

  1. 有情の心が外界を構築する(所変)。
  2. 個々の構築物が似通っていて、共通の世界のように感じられる(相似)。
  3. これは、灯明がそれぞれ光を放ちながら、全体として一つに見える現象に例えられる。

唯識の思想は、私たちの主観と客観の関係を深く洞察したものです。このような視点を現代に生かせば、異なる視点を持つ他者との共通性を理解し、共生の可能性を探るヒントになるでしょう。


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    共相種子(きょうそうしゅうじ)とは?

    共相種子は、唯識思想における重要な概念の一つで、「共通の現象を作り出す基盤となる潜在的な要因」を意味します。特に、私たちが共有している「客観的な世界」がどのように生じるかを説明する際に使われます。


    用語の分解

    • 共相:多くの人々に共通して認識される現象や事象。たとえば、「空は青い」「地面は固い」といった、誰もが似たように認識する現象。
    • 種子:唯識では、「心の中に潜在する、現象を生み出す原因や力」を指します。これは因果的に働き、心や外界の現象を作り出します。

    まとめると:
    共相種子とは、有情の心の中に潜在し、多くの有情が共有する共通の現象(共相)を生み出す原因や潜在力です。


    唯識思想における共相種子の役割

    1. 個別性と共通性の調和
      唯識思想では、現象は各有情の心が生み出す「所変」(心の変化の結果)だとされます。しかし、全ての有情が異なる心を持ちながらも、「共通の世界」を経験しているように感じるのは、共相種子の働きによると説明されます。

    2. 因果の共有
      有情が過去の業(カルマ)によって共通の種子を心に持ち、その結果、同じような現象を知覚します。このため、世界は統一的で客観的に見えるのです。


    具体例で理解する

    1. 共相種子の現れ

    たとえば、複数の人が「山」を見たとします:

    • それぞれの心(識)が山を認識しますが、「山」という現象は、共相種子から生じた共通のイメージです。
    • このため、多くの人が同じ山を見ていると感じます。

    2. 灯明の比喩

    前述の『成唯識論』の句にもあるように、多くの灯明(個々の心)が同じ空間を照らし、一つの光のように見えるのが共相種子の働きと説明されます。


    関連する概念

    1. 別相種子(べっそうしゅうじ)  

      • 有情それぞれが持つ独自の種子で、個別の認識や経験を生み出します。
      • 例えば、同じ「山」を見ても、ある人は「美しい」と感じ、別の人は「怖い」と感じる違いは別相種子の働きです。
    2. 業(カルマ)  

      • 共相種子は、過去の業(行為)の結果として、同じ現象を共有する基盤となるものです。
    3. 所変  

      • 心が生み出した外界の現象。共相種子による所変が、多くの人に共通する現象を生みます。

    現代的な視点

    共相種子は、現代の認知科学や哲学での「主観と客観の共有」についての議論とも関連があります:

    • 社会的構築主義
       人々が共通の現実感を共有するのは、共通の経験や文化的な枠組みを持っているからです。これを唯識では共相種子と説明します。

    • 仮想現実の例え
       仮想空間に多くの人が入った場合、それぞれのデバイスが異なるにもかかわらず、同じ景色を共有するような仕組みが、共相種子のイメージに近いと言えます。


    結論

    共相種子は、唯識思想の中で「共有された現実」の基盤を説明する重要な概念です。各有情が持つ共相種子によって、私たちは個別の認識を持ちながらも、一つの統一された世界を共有しているように見えるのです。

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