「全日本ものまねグランプリ、決勝戦!」
司会の高らかな試合開始の合図と共に、コロシアムに二人の戦士が現れた。
およそ5ヶ月間続いたこの壮絶なる戦いの大トリを務める戦いが、幕を開けようとしている。
かたや「砂塵のオオガマ」。鳥取在住の魔法使いだ。最近の悲しいニュースはネトゲへの課金が度を越して妻に殴られたことだそう。愛する妻にかっこいいところを見せるため、父親である彼は今日も先祖から語り継がれし口伝の拳術をテレビの前に見せつけていく。補足すると「砂塵のオオガマ」は本名である。
そしてもう一方は「ハトポッポ喜多郎」。全身黒タイツでの参戦だ。名前も偽名であり、無口なのも相まったそのミステリアスな姿がファンの心を掴んで離さない。抜群の身体能力や刀さばきから、秘境の暗殺集団の一員だの、タイムスリップしてきた宮本武蔵だの、その正体に関する噂が絶えないが、真相は明らかになっていない。唯一の情報といえば彼がバツイチの独身男性ということくらいか。砂塵のオオガマには嫁持ちという点でコンプレックスを抱いている様子。この憎しみが力となるか、仇となるか。
カァーンと、ゴングが鳴り響いた。試合開始早々、喜多郎が刀を抜きながらオオガマへ走り出す。コンプレックスから湧き上がる虚しき憎悪が黒タイツ越しに伝わってくるようだ。解説の浜田さん、これは一体どういう……
「彼、一見怒りに任せて突っ走ってるだけのように見えますけど、走り方、剣の抜き方、移動の仕方共に一切の無駄がありません。それによく耳を澄ましてみてください。聞こえるでしょう?彼の静かなる唸り声が」
歓声で聞こえませんね。
「あれはハワイに生息する魚類が周囲の環境をキャッチために行う、ジズリングと呼ばれる超音波のようなものです。オオガマの動きを完璧に予測しているのでしょう。彼はこの戦いを一瞬で終わらせるつもりです」