みんポケ!

【SS】名も無き観測者達 / 25

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雷霆を鍛えし者 2016/08/07 (日) 19:43:00 修正

 それからというものの、アルトは鬼神のごとく苛烈にアポかどを攻めた。

アルト「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ねぇぇええええええ!!!!!!」

 アポかどはこれまでに培ってきた戦闘経験を絞り出し必死にアルトの太刀筋を予測し、斬撃が到達する前に跳躍し、全身を使った剣技で受け流すなどをして、辛うじてアルトの剣から逃れていた。
 だが、剣速、手数、破壊力、余波、生み出す何もかもが通常を超越したアルトの剣を前に、ただの傭兵にすぎないアポかどは戦闘時間が増すごとに消耗させられていった。
 アポかどの体には大小多様の無数の傷が刻まれていた。刃先がかすった際の切り傷に、余波で飛んできた木片や砂利が刺さったことによる裂傷。目に見える外傷以外にも、受け流してきれなかった力を受けたによって軋み、所々にびびの入った全身の骨。剣を握っている両手は特に酷かった。
 今のアポかどの状態は満身創痍といっても差し支えがない。それほどまでに傷ついていた。
 だが。

アルト「何故だ!!!何故、剣が当たらないんだ!!!!」

 だが、アポかどの動きは一切鈍ることはなかった。
 いや、まず前提条件からおかしい。
 アルトの評した通り二流の剣士に過ぎず、身体能力も傭兵の平均値ほどのアポかどが、何故、一撃一撃が森を裂くアルトの猛攻を凌ぐことができているのか。アルトにはそれが理解できなかった。

アルト「クソがぁぁぁあああああ!!!!」

 彼自身が言った通り、戦闘経験によるものか。だが、既にアルトはそれだけでは説明不可能と断じている。それだけでは証明しきれないからだ。
 では、何故なのか。アルトにはそれがわからなく、もどかしかった。

アポかど「殺し合いの最中に考え事たぁ、俺も舐められたもんだな」

 そんなアポかどの呟きと同時に、アルトの頬にアポかどの剣がかすった。

アルト「え?」

 アポかどに関しての考察を必死に巡らしていたアルトの頭の中が、ただそれだけのことによって真っ白に染められる。だが、それは一秒の数十分の一程度のほんの一瞬だけであった。
 次の瞬間、アルトの脳内はこれ以上にないほどにクリーンになった。
 アルトは、アポかどの追撃の太刀を上体を反らすことで避けると、跳躍して後退する。
 アルトがかすり傷を負い、後退した事実に、後ろにいた女性たちは少なからずショックを受けるが、それは勝負に関係のない話。

アルト「いや、感心した。すごく感心したよ。この僕に、まさか一太刀浴びせるとはね」

 アルトはアポかどを称賛した。だが、それは上から見下したような言い方ではなかった。その目には、ある種の尊敬の念がこめられていた。
 アポかどはこれに疑問を持つが、称賛されたからには言葉を返そうと思った。

アポかど「いやいや、それほどでもねぇよ。流石に間近で長時間、極限状態で剣を打ち合わされてたら、誰だろうが動きにも慣れるもんだぜ。今、ちょぉっとばかし、アンタの剣が見えてきたところだ」

アルト「いや、誉れあることであれど、謙るようなことでもない。誇れ。君は英雄をして唸らされた偉大な戦士だ。腕力も、速さも、剣も、何もかもを上回る存在に真っ向から挑むなど、英雄たる僕にも無理だ。いや、英雄ではないな。僕は単に自分より弱い者を倒していただけ。決して、英雄などではない」

アルト「だから、初心に戻るとしよう」

 慢心に満ちたアルトはそこにはなく、ただ目の前の敵を倒そうと言う闘志に満ちた一人の戦士として彼はそこに立っていた。
 無型だった剣の構えは、剣術の基礎をなぞるように堅実な正眼の構えとなっていた。
 最早、アポかどが何故強いかなどはどうでもよくなっていた。今はただ失った誇りを取り戻したい気持ちが胸を占めていた。

アポかど「……へぇ。良い目をするようになったじゃねぇか、ガキが」

 先程まで押されていたというのに、まるで格上が格下を見定めるかのようにそう言い放つアポかど。
 だが、不思議とアルトはそれを不快とは思わなかった。

アルト「お誉めに与り、光栄だ……」

アルト「《盾よ……》【堅装・盾(ジ・エージス)】」

 アルトの全身を黄金の武装がまとわりついていく。アルトが発動したのは全身甲冑の鎧を呼び寄せる類らしく、黄金の武装は頭まで覆いつくした。
 表情の見えなくなった彼は、面甲の隙間からアポかどを睨むと殺気を全開にした。

アルト「……遅れ馳せながら名乗りをあげさせてもらおう。異世界《ヴォルフスヘイム》が亡国《ドライアド王国》の《龍狩り騎士団》騎士団長のアルトリウス」

アポかど「くくく。それがお前の本気ってか?笑わせてくれる。こちとらお前より何倍も強いやつをぶっ殺してきたんだよ。精々、長時間に渡って俺を苦しめてから、俺に首を刈られて死んでいけ」

アルト「死ぬつもりは毛頭ない」

アポかど「それはダメだ」

アルト「ならば推して参る!」

アポかど「勝手に推して参っとけ!」

 アルトは神のごとき威光を放ちながら、アポかどへと踏み込んでいった。

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