???「ようやく英雄様の御出番って訳かね。それにしても美女二人殺されないと出てこれないって、アンタも薄情だなぁ。……防ごうと思ったら防げたってのに」
アルト「いや、初太刀は見抜けなかったよ。人の意識の隙を縫って動くのが余程得意と見た」
???「いやいやいや、そんな高尚なもんでもねぇよ、俺のは」
アルト「ほぅ、だったら何だい?」
???「知りたいなら身体で知れよ」
そう言うやいなや、男はアルトとの距離を一瞬でほぼゼロ距離にまで詰める。
???「ま、理解する前に逝ったら無理だけどよ」
一閃。男の剣がアルトを捉えた。かに見えたが、その寸前でアルトが右手で男の剣の刃先を掴んだことで、その斬撃は途中で止められる。
???「っ!!!」
アルト「話にならないな。ドラゴンの前座くらいには楽しませてくれると思ったのに」
直後、男は凄まじい力で後方に弾かれる。軌道上にあった木に背中を強かに打ち付け、幹にもたれながらズルズルと崩れ落ちる。
???「くっ……」
アルト「今の技は僕の故郷で基本とされていた合気体術の一種でね。名前は忘れたが、確か向かってくる力をそのまま跳ね返す技だったな。原理はよく知らんがね」
アルト「……ああ、君の剣技を見切れたのは、単に僕の格闘センスと動体視力が優れていたからなだけで、特に深い理由はないよ」
???「……いやぁ、強いねぇ」
アルト「おいおい、そんなくらいで強いなんて言ってくれるなよ。僕の期待を裏切らないでくれよ、頼むから」
???「ごめんな。俺、そんなに強くねぇんだ。
アルト「他の……?組織的な襲撃か」
???「だから、いっつもギリギリなんだ。ほんと、ウンザリだぜ。いつも死にかけるのに何故か負けられない」
???「勝利の女神に愛された弱者ってのは、不幸だぜ」
アルト「その口振りだと、まるで僕に勝つことが当然みたいじゃないだな」
???「いや、侮ってる訳じゃねぇんだ。ただ、俺が何故か強いだけだよ」