思い出したから更新
♦
その姿だけでも、僕に危険を感じさせるには十分だった。
「――――っ」
瞬時に重心を後ろに動かし、右足で跳ねるように跳び退く。
尻を強かにアスファルトに打つが、気にしない。手と脚を接地し、臨戦態勢――――と言うには尻餅をついていてどうにも間抜けだが――――を取り、人魂――――鬼火か?――――を見据える。
否、見据えようとした。
そこには既に人魂の姿はなかった。その代わりに、
「――――クックックッ」
と静かな笑いが響き渡る。
何だ?
「クッ――――フフッ――――ふふふっ」
そこで、はたと気付く。
その笑いは火が灯った校門――――つまり前方――――ではなく、後方、否、僕の頭上から降ってきていた。
「あはは――――愉快ね」
昼間に聞いた声だった。
ひとまずその声を聞いて多少なりとも安堵した僕だった。
全く、傍点まで振った僕が馬鹿みたいじゃないか。
「弐栞。全部お前の仕業なのか?」
僕の頭上で未だに笑っているクラスメイトに、そう問いかけてみる。
「あら。人聞きの悪いことを言うじゃない、日向瀬君。私は人魂に怯える日向瀬君を観察しようと背後にいたけれど、日向瀬君の反応が面白すぎて、ついつい笑いが抑えきれなくなっただけよ?」
「・・・」
人が悪い。
「レディに向かって失礼ね」
心を読まれていた。
「私にかかればお茶の子さいさいよ」
なんだこの一方的な以心伝心。
「ま、ただ日向瀬君の思考を推理しているだけなのだけれど――――それはともかく日向瀬君。もう一度校門に手をかけてみなさい?答え合わせをしてあげるわ」
暗に分かり易い奴、と言われた気もしたが――――もう一度?答え合わせだと?さっきは人魂は自分の仕業じゃないと言わなかったか?
「仕掛け人でなくとも、仕掛けのタネを知ることはできるでしょう。そんなことも分からないとは、残念な脳細胞ね」
「残念って言うな」
こいつの方が成績いいからなぁ・・・。
「ほら、もう一度校門の前に――――もう一度人魂と対峙しなさい。今度は逃げずに、ね?」
「・・・おう」
渋々、立ち上がって再び校門へ歩き、さっき人魂を見た辺りで立ち止まる。
フッ
「――――っ」
また、人魂が現れた。だが今度は退いたりしない。熱さを錯覚するほど目前の人魂に対峙する。
「――――あれ?」
すると、ふ、と人魂が消えた。
困惑していると、再び、ふと人魂が現れた。
「・・・」
ひとまず、観察してみると、どうやら人魂は3秒程の周期で明滅してる様だ。
まるで自分の存在を弱々しくも主張するように。
♦
続きは後で