(弐の続き)
危うく機密(?)を漏らしかけた幹斗に雑に片手で謝罪し、懐かしいゲームのネタを交える。
「懐かしいな。でもそれなら白羽ひとりで倒せるだろ?」
「いつの話だよ。今じゃ腕が鈍ってて無理だって」
「その昔は何体狩ったんだ?」
「四、五十体くらい?」
「なら大丈夫だな」
「じゃあペアで狩ろうぜ」
「俺以外の人でよろ」
「俺の相棒はお前しかいないぜ!」
そこまで言って、フレンチトーストの最後の一切れを飲み込んだ時に、幹斗は何かを思い出したような仕草をした。
「ん、この前来た時にさ、何か相談してたおばあさんいたよな?あの件どうした?」
「ああ、あれな。丁度いい」
そこで言葉を区切り、意味ありげな(特に意味の無い)笑みを浮かべる。それを受け、何かを察したようにキリッとした顔をつくる。
「今日の夜、その件について動く予定なんだよ」
「ほう。家出少女だったっけ?」
「そうそう。今夜利玖と、件の少女が一緒にいるっていう不良たちの集会に凸る予定だ」
つい最近から町のコンビニの周りにたむろしている不良がいるという噂も耳に入っていたので、飛んで火に入る夏の虫、という具合だ。もう立秋は過ぎているが。
「危ないことにならないか?大丈夫か?」
心配しているのだろう。幹斗が問いかける。
「大丈夫。そんな事にはならんと思う」
「んー、でも心配だから俺も着いてくわ」
「えっ────暴力沙汰も噂される連中だぞ?危ないからよせよ」
「それなら尚更だ。俺も行く」
やれやれ、と白羽は思った。この顔をした幹斗の意思を曲げる────曲げさせるのは不可能に近い。幹斗と同じだけの熱量で言い合う気力は、今の白羽には無かった。よって妥協をする。妥協が良い結果に転ばないことを、白羽はよく知っているが、そこで白羽は妥協を選んだ。
────選んでしまった。
「そこまで言うなら仕方ない。着いてきてもらうか。今夜九時にそこの階段の下に集合でいいか?」
「ああ」
言うと、空になったカップと皿をおもむろにカウンターに返してくる。「ありがとう」と返してシンクにそれらを置き、扉へ向かう幹斗を送るため、カウンターを回り込んで幹斗に近寄る。
「じゃあ、また」
「うん、また夜に」
短い挨拶を交わすと、幹斗は扉の向こうへ歩き、扉が閉まるとともに階段を叩く音も消える。
別れ際の幹斗は固い顔をしていて、何を思っていたか、白羽には伺い知れなかった。白羽は人より、他人の心情を察する能力に長けた男だったが、自分が関わると、途端に相手の心が見えなくなる。何か悪いことをしてしまっただろうか。白羽の胸は俄にざわつく。しかし、そう考え込むのは一瞬だった。再び階段を叩く音が聞こえてくる。幹斗の靴とは違う音だ。思考を止めて、カウンターへと戻る。
大丈夫、思考を
扉がきぃ、と開いていく。
「いらっしゃいませ」