伯林聖杯戦記0話~0.5話sideSkorzeny
2020/09/04 (金) 19:15:18
「ここ、良いかね?」
スコルツェニーはにこやかに微笑むと向かいの席に座り、手に持っていたスーツケースを置いた。
「…………どうぞ」
男は投げやりに頷くと窓に顔を向けた。
「もしや兵隊さんかね? 負傷されて後送されたとか?」
「まぁ、そんな所です」
「私も先の大戦の時は兵隊だったが足を撃たれてしまってね、君のような若い者に任せてしまっている」
「大した事ではないです」
「そうかね、ところで何処まで行くつもりだい?」
「…………ベルリンです、父から頼まれた用がありまして」
今まで言葉に感情の乗っていなかった青年の言葉に僅かに感情が乗った。
「そうか。…………少年、悪いことは言わない、この国はもうすぐ負ける。ベルリンは国土や人民を傷つけられた怒りに燃えるソ連に完膚なきまでに破壊され、蹂躙されるだろう。用が済んだら家族を連れてすぐに西へ逃げろ。少なくとも米英の勢力下である西部戦線((当時のドイツは米英相手の西部戦線とソ連相手の東部戦線、二つの戦線を抱えていた))であればそれほど酷いことにはならない」
スコルツェニーは青年の目を真っ直ぐ見詰めて、真摯に話す。
「大丈夫です……父も母も、もういません。友人の一人も、いません。一人で行ってくるだけですから」
スコルツェニーの言葉を聞いてなお、青年の目は生気がなく、空虚だった。
「そうか……」
スコルツェニーはゆっくりと頷く。
言葉ではこれ以上彼を動かすことは出来ない。スコルツェニーは黙るしかなかった。
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