伯林聖杯戦記0話~0.5話sideSkorzeny
2020/09/04 (金) 19:14:46
今のスコルツェニーは左頬の傷を隠し、白髪のかつらと山高帽、片眼鏡を付けた老紳士にしか見えなかった。
(この状況下でベルリンに呼び出しなんて録な用じゃねぇな……)
二等客車はガラガラだった。
普通こんな状況下で容易に移動は出来ないし、昼間の列車なんて連合軍のヤーボ((ヤーボ。ヤークトボンバー、戦闘爆撃機の略称。身軽な戦闘機に爆弾やロケット弾を積んだ地上目標攻撃用の機体))の的になるような物だ。
乗客が少ないのも当然だろう。
適当な席に座ろうと席を見繕っていたスコルツェニーの目に人影が映る。
奇特な先人がいたらしい。黒のロングコートを来た男のようだ。
俯き、視線を下げていた男だが、向こうも此方に気付いたようだ。一瞬、視線が交差する。
スコルツェニーは男の目に見覚えがあった。
それは戦場という現実を前に理想も信条も砕かれて夢から覚めた者の目。
よく見ればその顔つきは幼さが残っている。
そいつがユーゲント上がりなのは目を見れば分かった。
戦場という現実を前に理想も信条も砕かれて夢から覚めた奴はみんなああいう目になる。俺のように戦場に適合してしまった一握りのクズ以外は。
俺は黒の装束に袖を通した武装親衛隊中佐、ああいうガキを『どうなるか分かっていて』戦場に送り込んだ側だ。
総統からの命令は誰にも知られるな、誰にも見つかるな。……それがどうした。ここであの小僧を見過ごしたら俺はディルレヴァンガーの第36SS武装擲弾兵師団やカミンスキー旅団と同じ本当のクズ以下の畜生になっちまう。
これは俺の自己満足だ、己の人間性を保つ為、今までしでかしてきた、目をつぶってきた罪を償おうとする代償行為に過ぎない。
それでも良い、一人の小僧の命が救えるなら幾らでも罵りを受けてやる。
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