雷鳴。
そして、視界を覆いつくす稲光に、咄嗟に目を閉じた。
一瞬途切れた感覚を、再び取り戻す。英霊兵に虐げられた身体の痛みと―――左手の甲に火が付いたような熱。
僅かに目を開き、そして見開いた。
英霊兵がいない。いや、尻もちをついた自身の眼下にバラバラの残骸となって転がっている。
まるで雷の直撃を受けたように、装甲の表面は黒く焼け焦げて……雷?
そう、雷が、青白い稲妻が、微かに車両の中を飛び交っているのが見えた。……その中心に、「それ」はいた。
その話を初めて聞いたのは、父の寝物語。日本という国の昔の話。
この国とは違った甲冑を身に着けて、片刃のサーベルを携えた戦士が、日本を舞台に争ったという。
確かに、それが纏うものは、その日本式の青と黒で彩られた甲冑のようで、右手の輝く刃はサーベルと似ている。
その時、残った英霊兵が動き出したのに気付いた。先ほどよりも速度を上げて、圧倒的な質量差を武器に轢き飛ばそうとする。
危ない―――声に出そうとして、身体の痛みに押し込められた。僕を意に介することもなく、それは真正面から英霊兵と相対する。
す、と。それの右手が動いた、真横に引かれた手の動きに、握られたサーベル―――稲妻を帯びた刀が追随する。
そして、音もなく英霊兵の突き出した拳が、腕が、胴体までもが真っ二つに両断された。動力を喪った木偶は、
そのまま足元に倒れ込んで動きを止めた。
「――――――召喚の命に従い、ここに参上いたしました」
英霊兵を全滅させて、それがこちらに顔を向けた。それが喋ったのだと、最初は気付かなかった。
そして、雨の降りしきる空に雷霆が走り、激しい光が窓から流れ込む。
照らされた表情は、黒く長い髪を後ろで束ねた―――女の人の顔だった。
「あなたが、私のマスターですか?」