アルス/XXXI :告白
2020/07/31 (金) 00:48:56
「それにしても、どうしたんですアルスくん?こんなところに」
既に夜更け。
開発予定地の真新しい高台に立つのは、屋敷を抜け出たアルス/XXXIとパーシヴァルの二人だけ。
眼下には、繁華街の難波に負けず劣らず梅田の街が人工の灯で煌めき、行き交う人々で賑わっている。
対して高台の上は虫の音でも聞こえそうなほど静かに、眼上には星の明かりばかりが梅田の天井を照らしている。
そんな場所に急に行きたいと言い出したアルスのことを、パーシヴァルは疑問を浸した眼で見つめていた。
「うむ、その。ここのところ忙しく、ゆっくりできなかったのでな」
「―――そうですね、思い返せば色々なことがあったと思います」
少し詰まり気味に答えたアルスに、パーシヴァルが過去の記憶へ思考を巡らせる。
一年近くになるか。直近に起きた出来事は、それまでの自分たちの歩みに比してとても波乱に満ちていた。
始まりはきっと、「運び屋」ツクシが巻き込まれたトラブルに治安維持措置としてアルスが出向いた日。
それから運命は回り出した。
相次ぐ怪事件と激化する都市聖杯戦争、「日本」のクーデター、アルスの兄弟姉妹たる王器との競争。
そして、自身の姉から受け継ぎ、自身に埋め込まれた絶望の業との対峙。
数々の戦いを経て、再び束の間の平穏を取り戻した梅田の風景は、二人にとっては以前と異なって見えた。
何も変わらない日常などはない。複雑な意思が絡み合い、繊細なバランスで成り立つ均衡の上に立っている日常。
いつか壊れゆく、しかしその瞬間は誰にも予見できない日常。誰もそれを気づかぬまま過ごす日常―――
だからこそ、いずれ来るその時までの全てを尊び、守っていかなければならない。
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