「ギリガンさん! あれ! あれ何ですか!」
「何だ。浮標/ブイを見たことがないのか」
ゴールドスタイン商業艦隊は、今日も星の内海を征く。必要なものを必要な分だけ。そのポリシーある限り、彼らの商いに終わりはない。
そんな艦に、一人の少年。アトランティスより拾い上げた、好奇心旺盛な少年。きっと良い旅人になるだろうとギリガンが拾い上げたのだ。
彼がギリガンに問うたのは、その目線の先にあるもの。鋼で出来た、巨大な「棒」のようなもの。或いは、故郷にある星の塔に似ているかもしれない。あんなものがあるとは、彼は知らなかったのだ。
「本来ならば自分で調べろと言うところだが、アレのことをまともに知っているものはいない。という訳で特別にオレ様が解説してやろう」
本当ですか!とはしゃぐ少年を抑えながら、ギリガンは端的に告げる。
「アレもな、喪失帯……つまりはお前のアトランティスのような、『世界』の一つよ。誰が呼んだか知らぬが、エピタフと呼ばれている」
「エピタフ……?」
「墓碑銘、という意味だ。墓石のこと……だと言っても伝わらんか」
少し、懐かしむような顔を見せるも、すぐに引っ込める。その感傷は、今は不要なものだ。
「つまりは、墓だ。それも命の為の墓ではない。この艦のような、絡繰じかけの為の墓だ」
立て板に水を流すように、朗々と告げる。それは、喪失帯ならざる本来の世界の歴史。地に生まれ、数を増やし、文明を築き上げ、星の輝きに手を伸ばした、人類史の歩み。
遙かな天へ階を掛け、そして昇っていったもの達がいた。それを支えたのは、数え切れないほどの絡繰じかけ達。
「その骸を葬る為の墓こそが、あのエピタフ。そう言われている」
「絡繰じかけの、墓。でも、絡繰に命は」
「ないのかもしれぬ。しかし、あるのかもしれぬ。喪失帯には、実際に命を持つ絡繰は存在するぞ?」
「えっ!」
「フハハハハハ!! よく覚えておけ! このオレ様の言葉が本当かどうか、そのまま鵜呑みにしてはまだまだだ!! まずは自分で、得た情報を確かめてみることだな!!」
「えーっ、どっちなんですかぁ!?」
「知らん!! 自分で考えてみるがいい! フッハハハハハ!」
事象を知り、流動を以て価値を生じる。その眼は、ふくれっ面をした少年を、どこか面白そうな色を称えながら、じっと見つめていた。