kagemiya@なりきり

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アトラスの恵みあれ 2020/05/15 (金) 00:21:55

きょう、きょう。ネムリドリが声を上げて飛んでいく。
アナトリアから来たという「キシ」様は、その姿を物珍しそうに眺めている。
「なあ、船長さん。あの鳥、眠ってないか?」
「そう見えるだけさ。ネムリドリは、あれで起きてるんだよ」
「羽撃きもしてないが……」
「風に乗ってるのさ。俺達の乗ってる風舟と一緒だよ」
「ははーあ。アトランティスには変な生き物がいるもんだなあ」
呑気な顔で眺めているが、彼は、繁殖期のネムリドリが風舟を襲うくらい凶暴だということを知らないのだ。それを知っていれば、あんな気の抜けた顔はできまい。
それでも、実際に危機となれば頼りになる。ずっと前に、爺様達が『大蛇』をやっつけた時も、彼らが助けてくれたのだ。今度も、助けてくれるだろう。
「それで? 目的地の区画まではまだなのかい。地元の狩人がどうのこうのできないくらい増えてるんだろう、そのハネウシとやらは」
「トビウシだよ。ああ、もう少しさ。今日は風の機嫌がいいからな」
遠く、星の塔を見る。今日もあの塔は、世界を静かに見守ってくれている。空は青く、太陽の日差しは柔らかい。例えいつか滅ぶのだとしても、この一瞬の暖かさは、きっと価値のあるものだ。
「……今日も、世界にアトラスの恵みは満ちている」
風舟が、翼をはためかせた。

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