スカパ・フローの一日
2020/05/15 (金) 00:21:30
「南無妙法蓮華経……南無妙法蓮華経……」
タービンの轟音。歯車の作動音。からから、ころころ、なんだかよくわからないものが、あちらこちらへ動く音。
いつものように稼働するこの要塞の中で、いつものように、作業に従事する労働者達の、呪いのような言葉が響き渡る。
ショウダイ。極東の……黄色い猿などが有難がる聖句もどき。ブッディズムの何とかいう牧師だか神父だかが唱えたらしいが、一体そんなものを唱えて何になる。
誰もがそう思ってはいるはずなのだ。だが、それでも、縋るものがない。私達の信仰は、私達の祈りは、粉微塵に打ち砕かれた。
神は我らを救ってくださらない。機械仕掛けの怪物は、世界を焼き滅ぼし切るまで、動き続ける。それくらいの事は、嫌でも理解させられている。
あの東洋人は、文句をつけることはない。我々があちらを厭うように、あちらも我々を厭う。しかし、信仰をすることを拒むことはない。
その態度は、慈悲なのか、諦観か。あの東洋人がこの世界に溶け込むことを拒絶する以上、推測でしかない。それでも、救いではあるのだ。
「南無妙法蓮華経……南無妙法蓮華経……」
今日も私達は、意味もわからぬ言葉に縋り続ける。いつか、この惨劇が幕を下ろし、せめて安らかな死を迎えることができるように。
「……此処が地獄だと言うなら、貴方の言う通りになっているわね。ミスター・ハルゼー」
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