kagemiya@なりきり

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月面家族計画 その0 2020/02/29 (土) 17:37:39

反対して聞くわけもない。と思いながら答えたノワルナに対して、ナハトが声を投げかけた。
反射的に振り向いた先の彼女の顔はいつも通りの仏頂面で———
否。これまでにないほど複雑な感情を込めた、一言で表すならば思い詰めた表情を向けていた。

「子供はその構成情報の半分をお前から受け継ぐ。私たちの子であると共に、お前の子でもある」
「お前が父親だ。消極的な賛同は、この子の将来を望まないも同義だろう」

そんなこと言われてもなぁ。

子供が産まれるとして、その存在を否定するつもりはない。だが、それに対して人間の父親らしい機能を代替するには前例となるデータが存在しない。
一応、自分の親は月の主催者になるのだろうか?———遠い月の母の顔を思い返したが、すぐに駄目だと悟った。
彼女と被造物の殆どは親子である前に、科学者と検体の関係に近い。そこに愛を感じはすれど、根本のベクトルが異なっている。
これは参考にできない、結局は情報を集めて出たとこ勝負で対応することを強いられている。
果たして、データから得られた親の真似事がどれほど寄与できるものか。本当に父親として振る舞えるのか———

「あっそうだ。ノワルナくん、はい」

思案する表情が硬くなるのを見かねたのか、ライラが立ち上がった。
そのままノワルナに近づき、右手を取って———自分の腹部に押し当てる。

「———ライラ?」
「とりあえず、考えるより感じるといいよぉ。ほらナハトちゃんも」
「……わかった。触ってみろ」

接触のタブーはどこへ行ったのか。ナハトも続いて腹部にノワルナの手を導く。
右手と左手、それぞれでライラとナハトのお腹に触る格好になった。

「———生きてる」

とくん、とくん、と。両掌から、二人の子の生きる鼓動を感じ取る。
自分たちが作られた存在、人工物、その認識に異論はない。
しかしこの鼓動は、単にシステムが作り出した人工物の律動とは異なって感じた。
そう、もとより邪魔だと思ったならば、懸念があったのならば、産ませる必要などなかったはずだ。
造りものが望ましくないならば、投棄すればいいこと、これまで失われた数多くの人工物と、いくつかの命と同じように。
そのように、今ここでこの鼓動を止めることはできない。———だから、これはいのちなんだ。
それから、明確に自身が子が欲しいと示すまでの暫くの間。ノワルナは二人の———自分の子の生命に思いを巡らせていた。

「とりあえず、仕事はしばらく僕が代わるよ。母胎は安静にするものだから———詳しい工程は後で調べるけど」
「今はとりあえず、そうだね———これを渡しておくね」

「えっ!?プレゼント!?何これぇかわいい!!!」
「服、か?私たちの」
「人間における妊婦の服。マタニティドレスって言うんだって」

「二人とも、多分今日のこと子供にも言うと思うからさ」
「今のうちに印象良くしておかないと、お父さんは懐かれないだろうからね」

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