「ねぇ、二人とも」
「これはどういうこと?」
これは煮卵ですか。いいえ褐色の女性のお腹です。
大きく膨らんだそれはそこはかとなく背徳的な———などと冗談を述べる気にはなれない。
何故いつも通りの格好なのか。中身が寒そうだからせめて何かそれらしい服を着て欲しい。
方やもう一方、茹で卵———それはもういい。白い服の女性のお腹です。
普段の細い肢体とは大きく趣が異なる。ともすればアンバランスさを感じさせるほど大きくなった腹部。
薄着とはいえ一応布を纏ってはいるが、やはり体格から想像される年齢と比して違和感が凄い。
否。そもそも二人とも質量的に違和感しかない。
「これは———どういうこと?」
この状況を短く要約する。
ライラヤレアハとクヴァレナハトが妊娠した。
「何ってもちろん、赤ちゃんが!できましたぁー!!!」
「おい、あまり騒ぐな駄姉。子供がいるうちは大人しく座っていろ」
「えぇぇ……じゃあどうやってこの喜びを全身で表現すればいいのぉ?これじゃあ全然足りないんだけど」
「お前の感情表現は元々どれだけ過激にやろうが足りんだろうが。とにかく座れ。ノワルナ、お前もだ」
「うん」
フリーズしたままのノワルナの思考が、ナハトの命令によって辛うじて動作する。
3人とも茶会の席に座ったが、変わらず彼の動作はぎこちないまま。とりあえず頭に浮かんだ疑問をそのまま投げかけてみた。
「いやだって、妊娠って言われても全く脈絡がないし、どうしてそんなことに?」
「どうしても何もお前が散々やったことだろうが」
「ちょうど今みたいにお腹パンパンにされちゃったねぇ〜」
「そこはノーコメントでお願いします……でも、僕たちそもそも子供を作る機能とか着いてなかった気がするんだけど」
仮にそのような機能が新たに搭載されたとして、普通に暮らしていた自分たちにいつどうやって仕込みを———
あっ。
「———ライラ」
「てへっ」
「てへっじゃない」
突き刺さるノワルナの視線をライラが舌を出して相殺する。
要するに、事に及ぶ前にこっそり世界を書き換えていたというのが本件の顛末らしい。
いくら視線を刺そうが彼女に効くはずもなく、一通りシンプルかつ重すぎる状況を確認したノワルナはひとまず結論を出す事にした。
このまま妊娠した子供を産み育てるか、再び世界を織り直して全てを夢に返すか。
育児放棄・中絶その他の方法は、後味を考えれば論外に尽きるだろう。故に先の二択から選ぶ以外はない。
「まぁ、そうだね。二人が産みたいなら別に反対はしないけれど、色々問題が無いかが懸念で———」
「いいや。これにはお前の積極的な同意が必要だ」
「え?」