kagemiya@なりきり

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ギドィルティ・コムのバレンタイン② 2020/02/15 (土) 21:03:09

もっとも、こんなルールのバレンタインデーもホワイトデーも、この国独特の風習(コマーシャリズム)によるものだということは黙っておいた。
知らない方が悪いのだし、何より今は金が絶望的にない。
だから、武器のメンテナンスや調整も、できるだけ店頼みではなくイーサン自身で行っている。
ギドィルティ・コムを召喚してから、回収作業のための調査が格段にやりやすくなったのは確かだ。
しかし、だからといって打率が急に上がるわけではない。
だというのに、コイツの食費はかさむ一方だ。
財政状況としては召喚前より悪化したといっていい。
「ホワイトデーか」
「覚えたか?いや、忘れてもいいというか忘れろと言いたいくらいだが、とにかく2月14日はお前がチョコレートを要求する日じゃねえんだ」
それを聞いたギドィルティ・コムは、チラシを掴んでポケットにねじ込むと、興味を失ったようにふいと部屋を出ていった。
一人残されたイーサンは、何とか言いくるめられたかと胸をなで降ろすのだった。

…………

2月14日。
新たなロストHCUの手がかりも見つからず、金欠に頭を抱えるイーサンの前にギドィルティ・コムがやってきた。
「おイ」
「なんだ。飯なら」
「これヲやる」
ギドィルティ・コムが、赤い包装紙で綺麗に包まれた小さな箱を、イーサンの目の前に置いた。
「お前、これ」
「今日ハ2月14日だロ?」
イーサンがはっとして壁にかかったカレンダーに目をやると、14日が赤いペンでぐるぐると乱暴にチェックされていた。
「マあ開ケてみろ」
ギドィルティ・コムに促されるままイーサンは包装を剥がして箱を開ける。
ハート型のチョコレートが入っている。
「ハッピーバレンタインって言ウんだロ?オレからのプレゼントだマスター」
「お前、これどうやって……」
バレンタイン用のチョコレートの相場なんぞ知らないイーサンだったが、それがkgいくらで売られている業務用チョコレートよりは高いことだけは分かった。
「まさか店を襲って」
「金で買っタ。武器を売っテな」
ギドィルティ・コムは、懐から1万円札を数枚取り出すと、これ見よがしにヒラヒラと打ち振る。
「……!」
「ちがウちがウ。こっちダ」
思わず武器の保管場所を確認しようとしたイーサンの目の前で、ギドィルティ・コムは口に指を入れる。
そしてもぞもぞと探るように手を動かすと、ハンドガンを取り出す。
奇妙な光景だった。
口から引き出された小さなハンドガンが、にゅるんという効果音でも付きそうな滑らかさで、元の大きさに戻ったのだ。
イーサンは、テレビでたまたま目にしたジャパニーズアニメの一場面を思い出した。
青い猫型ロボットが、腹についたポケットから不思議な道具を出すシーンだ。
ポケットの入り口よりもはるかに大きな物体が、まさに今ギドィルティ・コムが口からハンドガンを取り出したように、縮尺を歪ませて出てきていた。
「っと、そうじゃねえ!ギドィルティ、お前それはどこから」
「今まデ何人かザコを食っテきただロ?そのときに、武器は”消化”せズに残しておイた」
「そんな器用なことができるならさっさと言えよ!そうすりゃあ、かなり金が……」
「聞かレなかったシな」
と、ギドィルティ・コムはチョコレートを摘み、イーサンの口に押し込む。
むぐ、と口をふさがれたイーサンの服の襟を掴んで引き寄せると、耳元でギドィルティ・コムが囁いた。
「チョコレートをモらった男は、ホワイトデーにお返しすルんだよな?『期待』してるゾ、マスター」

その言葉の響きは、甘いチョコレートを苦々しく感じさせるには十分すぎるものだったとイーサンは振り返る……。

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