深夜11時。人気のない静かな商店街を、アカネとレオンは歩いていく。
バレンタインの夜を二人歩く男女と言えば聞こえはいいが、青年のほうにそんな華やかな雰囲気は無い。
一人の少女を笑顔にしたのはいいが、そのために支払った対価が余りにも大きすぎたのだ。
無言のまま、二人歩いていく。このまま寂しくヨットに帰るのかーと思っていた矢先、
「……あーもう、そんな落ち込むなよ。悪かったって。
ほら、これやるから少しは元気を出せよ、アンタらしくもない」
と、隣から赤い布で包装された四角い箱を渡される。
もしかしてチョコか?と揶揄ってみると、そうだよと返される。少し驚き、断りを入れて箱を開けてみると、
中には器用にチョコレートで作られたコンパスが入っていた。
「一応、アンタには世話になってるからな。
前ヨットで見た、大事そうなコンパスを模して作ってみたんだよ」
「オイオイなんだツンデレかー?アカネ、お前はどっちかっつーとツンギレだろーが。
というかアレだ。確か前に姉さんがヤキモチ妬くから素直に好意は示せないんだとか言ってなかったか?」
「好意じゃねえよ自惚れんなバーカ。
まあ、確かにアオイのことは今でも怖いさ。でもまあ、もし今来ても何とかなるだろうとも思うんだよ。
__________頼らせてもらうぜ、レオン?」
「……はっ、いっちょ前なこと言うようになったなお前こんにゃろー!」
「だーっ頭撫でんじゃねえ!斬られたいのか!ああ斬られたいんだなおう動くんじゃねえ狙いがずれる!」
先程までの静けさは何処へ行ったか。笑いながら逃げる青年と、怒りながらそれを追いかける少女。
二人の顔には笑顔があり、斯くしてバレンタインは騒がしい鬼ごっこと共に終わるのであった。
なおこの後夜遊びがバレて二人はおっかないババァとも鬼ごっこをすることになるのだが、それはまた別の話。