一般ルナティクスの夜
2020/01/15 (水) 22:46:04
『悪の涯より人の善心を見下ろす、最も公平的で実に不平等な狂気。
……うん、実に彼女らしい人選だ。これなら安心して彼女を任せられる』
その声は余りにも平坦であったが、不快感を感じさせない存在だった。だが、生物としての本能はどうだろうか
俺の中に残る、最も原初たる本能は告げていた。目の前の存在から逃げ出せと。眼前に立つは、人間ではないと
当然それは、俺の理性でも理解できた。嗚呼、これは"存在してはいけない"。欧米の創作神話で邪神と遭遇した者は、
須らくこういう感情なのかと感慨深く感じたよ。そう考える間にも、俺の脳は、いや全身は、逃げだせと悲鳴を上げていた
「ふむ……大方、ヤコの縁者か。挨拶に赴くとは丁寧な事だ」
それは例えるなら、罪悪が人の形を成したモノと言えるか。全てを無価値と断ずる咎、あるいは生きる虚空とも言い表せられるか
目の前の存在から逃げ出せ、と相も変わらず俺の本能は疼いている。それは生物としての当たり前、生者としての当然の理だろう
だが しかし 俺はその"当たり前"を否定しよう
知ったことか、と
俺は俺の狂気を以て、俺の本能を駆逐した。
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