世間様ではポッキーの日などと言われる、11月11日である。1の数字を細長い菓子に見立てていることは分かるが、例えば、野菜スティックの日、とか、ストローの日、とか、そんな風に呼ばれないのは、語呂の良さに加えて、製菓メーカーのマーケティングの成果もあろう。……これはギャグで言ったのではない。
ともあれ、日頃あまり買うこともないチョコ菓子をスーパーで手に取ったのは、こんな日にくらい食べてみようか、と思い立ったが故。帰宅してから、今日はこんな日らしいが、と、それを食後の食卓に出してみた。
「ぽっきー、ですか。成る程、1の数字に似ていますね」
菓子としての作り方に興味が湧いたのか、色々と角度を変えながら、彼女はじっとポッキーを見つめる。なんだかシュールな風景を見ている気もするが、深い興味を持って物事に触れるのは、何につけても良いことである。暫く見ていると、ふと我に返って、彼女はそそくさと袋にポッキーを戻した。
「ところで、箱の方に『ぽっきーげえむ』という言葉が書かれていますが、それはなんなのでしょうか」
えへん、と咳払いして続けられた言葉に反応してみれば、成る程、その通りである。はて、何処かで聞いた言葉のような気もするが……と、手元の端末で調べてみたところ、ジュブナイルの思い出作りにうってつけな『ゲーム』の内容が出てきた。
それを読み上げてみると、やや顔を赤らめながら、彼女はなんとなく納得したようだった。ゲームとしての勝敗が云々というより、それをすること自体に意味がある。そういうものに対する興味であったろうか。
食における最上等の娯楽である菓子を使って、そんな余興を楽しめる。考えてみれば、それは、彼女の生きた時代では考えられない奢侈であろう。文明の進歩、文化の遷移というのも、こんな些細なことからこそ感じるものである。否、現代であろうと、食の問題は完全に解決しているわけでもないのだが。
……などと、色々考えていると、取り敢えず、食べてしまいましょうか、という提案が聞こえてくる。食後すぐにお菓子というのも些か気がひけるが、彼女の方が興味を持っているようで、そこまで言うなら……と、一袋だけ頂くことにした。
案外食べてみるとこういうものは手が動いてしまうもので、久しぶりに食べるチョコレートの味は、やや甘すぎるのを除けば、十分に美味しいと言えるものだった。気づけば、彼女と共に袋の中をほとんど空っぽにしてしまい、残るのは後一つだけとなってしまった。
こういう場合は自分の方が多く食べていることがざらなので、残りは其方が……と言うが、彼女の方も、私は十分に頂きましたから……となる。こうなるとお互い譲り合いの押し付けになってしまい、最終的にじゃんけんで決めるようなことになるのだが、今日は、彼女の方から引いた。分かりました、では……と、袋から残った一本を引き抜いたのを見て、珍しいこともあるものだと眺め——。
はい、どうぞ、と。その一本を、此方に向けて、その細い指で支えて。
「あーん」
……これに対してどう対応したかは、此処では黙しておく。