「奴吾に、貴君に危害を加える意図はない。それが叶う程の能力も持ってはいない。信じられなくば、武装解除にも応じよう」
言いつつ、自身が普段纏う鎧を解除。手に携えた白銀の剣は、鞘に収めて、離れた地点へ置きに行く。
「……あ、なたは、グーラを……傷づ、けません、か?」
「肯定する。加えて重ねるが、そも、奴吾に戦闘能力は殆どない」
そういって、一歩近づこうとするが、身体を震わせて、接近を拒絶する。無理を押しても良いことはない。大人しく、歩みを止める。
「……奴吾は、貴君の存在について問いたい。貴君は何者であるか。参加者か、それとも、創造主によって作られたアルターエゴか。現今頻発する辻斬りとの関連はあるか。これらの事柄についての、応答の可否を問う」
「……」
沈黙。何も浮かばない表情からは感情を読み取れないが、纏う雰囲気は、否定に寄っているように思われる。
此処で強いて聞き出せるならば苦労はないが、それができるほどの力はない。ならば、言葉を重ね、刺激を出力させないように、問うしかない。
「……無理を強いるつもりはない。それをするだけの力が奴吾にはない」
「えっ、あっ」
「ただ。これにだけは応えてもらいたい」
刺激しないように。簡潔な言葉で、要点のみを伝える。
「貴君は、奴吾らを傷つけることを望むか」
「……グーラ、は、そう、したくない、です」
「返答に感謝する。であれば、奴吾は貴君に対しこれ以上近づかず、早急に退去しよう。その意志の確認が、奴吾の主要任務であった」
……意志の確認は一応取れた。虚偽である可能性は十分にある為、何の保証にもならない、というのが本来のところだが、ないよりはマシだ。
もし今後、彼(あれ)によると思われる辻斬りが頻発するようであれば、奴吾が居場所を特定して、今度は実働部隊に乗り込みを指揮する形になろう。
「あっ……」
「では失礼。重ねて、奴吾が貴君に恐怖を与えてしまったことを謝罪しよう」
鎧を再び展開。剣も回収し、エントランスの外へ。
今回直接遭遇したことで、対象の正体は判明した。今後は、ジェネラギニョールに対し、該当存在についての可能な限りの情報を伝え、辻斬りに関する警報を発することになるだろう。
それで被害がなくなるならば良し。まだ何か起こるようであれば、その時に対応策を打たねばならないが、今の奴吾にできるのは此処まで。
『情報抹消』が阻害するのは、一次的な記録であって、一度記録された情報の発信は止められないと記憶している。一度情報共有さえできれば、対応策も練りやすかろう。
今後の予定を思考しつつ、ジェネラギニョールの居場所を検索して、歩みを進める。
背後にいたはずの少女の姿は、いつの間にか消えていた。
───そういえば。彼(あれ)は己をグーラと呼んだ。名を聞くことも忘れたとは些か仕事を急ぎすぎたが、一先ず、その名で仮に伝えておくことにしようか……。