kagemiya@なりきり

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セディヴローモン怪文書:厭悪と衝動(2) 2019/12/28 (土) 23:06:17

「……良い子だから。奴吾の言うことを、聞いてくれ」
「お――」
自身を押し倒している小さな身体に、手を伸ばす。
常に身に纏う鎧も展開を解除し、インナー越しに、彼女の裸体を抱き寄せて、背中を優しく叩く。
「貴君は、いつも良く我慢してくれている。衝動のままに動きたいだろうに、サーキットの中から出ないでいてくれる。偉いな」
「えへへ。そ、そうかー?」
「嗚呼。そうだとも」
叩いた手で、そのまま頭を撫でてやる。こうすると、宛ら犬や猫のように、彼女は目を細める。
くすぐったがる仕草を見せるが、それでも続けていると、段々と動きが落ち着いてくる。その瞳にも、少しだけ、情欲以外の色が見えてくる。
「インパティナツス。貴君は、己の衝動に従うようにデータが構成されている。しかし、全ての衝動に無条件に従ってはいない。我慢することも、少しだけなら出来ているのだ」
「そうかなー。あたし、ムリにガマンなんかしてるつもりはねーぞー」
「ならば、無理をしない範囲で我慢が出来ているということだ。それは、貴君にとって素晴らしい成果だろう」
これは、心の底からの賞賛だ。彼女というアルターエゴの設計上、衝動が発生したら、それに従わずにいることは難しいはず。
それでも、自身から伝えた「サーキットから出ない」という約束事、決まりは守ってくれている。
自身の根幹に反する行為がどれだけ苦しいかを知っているからこそ、其処には手放しの賞賛を送らざるを得ない。

「……そして、それだけ我慢できる貴君なら、奴吾との交合も我慢できないか?」
――その賞賛に値する忍耐を、利用する。
創造主の言うことすら聞かない彼女が、多少なりともその意図に従っている。
それは、彼女からの指示を伝えた己に、何か特別な感情を抱いているからではないかと、彼は推定している。
彼女が強い執着を示した参加者の統計から、彼女が「一回り以上は年上の男性」を優先して狙う傾向が判明している。
基体となった人物の影響であろうか。恐らく、自身もそういった執着の対象となっているのだろう。だからこそ、彼女にとって難しいであろう我慢を、これまでずっと継続していられるのだろう。
それを、セディヴローモンは利用している。
情けのない手だが、有効だ。これまでも、渋る彼女に言うことを聞かせるときには、こうしてきた。
……相手を謀るようで負い目を感じているのは、彼女に邪気がないからだろう。
これまで何回、衝動のままに動く彼女をあやしてやったろうか。両手で数えきれなくなったあたりから、覚えることをやめた。覚えるだけ、罪悪感が積もっていく。
「……んー。そんなに、セディヴローモンが言うなら……」
渋々、といった様子を包み隠さず、それでも、首肯してくれる。己とは違って素直な娘だと、自嘲交じりに感心する。
「有難う。よく我慢してくれたな」
「おー? でへへへへ……」
軽く、抱きしめる。これも、いつものルーチン。当人はこれで喜んでいるようなので、報酬として機能しているのだろう。
良い行為には、良い結果を。『良さ』を決めるのが自身だけでなければ、そんな当然の行為にも躊躇いは無かったのだが。
嘆息は飲み込み、無理やり、表情筋を動かして、ぎこちない笑顔を作る。彼女の求めるものは、出来るだけ与えてやる。それで、少しだけ自己満足ができるから。
「……では、その礼だ。交合や戦闘以外で、奴吾に出来ることを言ってみるといい。エリア修復まで、付き合おう」
「お! できることならなんでもって言ったな!そんじゃーなー、まずはー――」

アルターエゴ。人間が持つ一つの感情を核に形成された、人工の英霊。
月の聖杯戦争の裏側で、彼らの想いを、ムーンセルは観測する。

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