「インパティナツス。これはどうしたことか」
「うへへ……。なぁ、セディヴローモン。進化(エボルブ)しねーか?」
控えめに言っても、致命的な危機である。自身の置かれた状況を客観視して、セディヴローモンは思った。
サーキットの片隅。構成情報に綻びが出た為、目下修復作業中のエリア。
此処にいる月の聖杯戦争運営側きっての問題児、もとい問題エゴ、インパティナツスが何かしらやらかした余波であろうということで、現在該当エリアは、インパティナツス諸共隔離された状態にある。
其処へ、つい様子が気になって、顔を出しに来たのがセディヴローモンの不運である。
修復を管理するジェネラギニョールに一言連絡こそ入れているが、自身の情報をどれほど彼女が把握できているかは分からない。
運良く彼女の配下が巡回にでも来てくれない限り、救援は……当てにしない方が良かろう。
となれば、彼は自分だけの力でインパティナツスをどうにかする必要がある訳である。
――筋力ステータスEが。
筋力ステータスCを。
しかも、相手は霊基改造だの進化だの、幾らでも自分を強化する手段持ち。
かなり、絶望的である。
(……然し諦める訳にもいかん。今ある手札でなんとかしなければ)
衝動に身を任せ、どこか一線を越えてしまっている瞳を見据える。
これが彼女の在り方とはいえ、それに巻き込まれてしまっては「それもよし」などとは言えない。
「……インパティナツス。奴吾は貴君と交合を行わない。奴吾の上から退いてくれ」
「えー? でも、わざわざ此処に来たってことは、あたしに会いに来たんだろ? そりゃもう嬉しくって……あ゛ーもう我慢できねぇ! ハメっこすっぞセディヴローモン!!!」
単純な要請による回避、失敗。
「奴吾はこの聖杯戦争を運用する立場にある。円滑な進行の為、貴君の特質によって奴吾が機能しなくなる可能性は避けたい」
「かーちゃんのことなんかしらねー。それにセディヴローモンは、この仕事したくねーんだろ? なら進化(エボルブ)してそんなのやめちまえばいいだろー!!」
道理による説得、失敗。
「……インパティナツス」
「お、なんだー? 進化(エボルブ)する気になったかー?」
……彼自身の能力では、力技で彼女を退けることはできない。
必然、使うのは言葉ということになる。
しかし、彼女を相手に単なる論理ではどうしようもない。
また、こうするしかないか。そう内心で零しながら、セディヴローモンは、次の言葉を発した。