Requiem怪文書:第七の空(3)
2019/12/28 (土) 22:50:27
「はい、答えをどうぞ」
「……宇宙、ですか?」
「お見事」
さっきまで何も書いていなかった、大気圏の境界線の更に外側。其処に書き加えられたのは、私の発した答えである二文字。今や、人類の版図から遠く離れてしまった、遥かな空の彼方。
「偶然ってのはおもろいねぇ。届かんと思われとった領域(そら)に、人類は一旦は手ェ伸ばした。其処が実は、神秘を見出した7っちゅう数字に縁があるやなんてね」
黄、青、赤、様々な色のチョークで、『宇宙』のそばに小さな点を散らしながら、センセイは感慨深そうに言った。星、のつもりらしい。輪っか付きの黄色い奴は、土星だろうか。
ずっとずっと昔から、この星の遠くで輝くそれを見て、人は想いを馳せた。時には其処に物語を。時には其処に神威を。そして、時には其処に運命を。垣間見たそれらは、科学の光に掻き消される幻でしかなかったけど、その幻に、託したものもあった。朗々と、語り聞かせるように、センセイは言葉を紡いだ。
何となく、考え込んでしまう。
人は神秘を駆逐して、世界を拡大したという。その過程で消えていったものを、センセイは偲んでいる。
きっとそれは、それとして大事なものだったんだろう。
でも、じゃあ、人類の発展は間違いだったのだろうか? そうして積み重ねられてきた私達が生きる世界は、間違いなのだろうか。
「大気を6つに分けた向こう側。
今や手放した宇宙こそ、人類の到達すべき
終業のチャイムが鳴る。蛍の光が響く中、遠く夕日が沈んでいく。いつの間にか、私もセンセイも、眩しい黄昏を一緒に見つめていた。
――「天王寺」が、今日も朱に沈んでいく。
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