フロンティア怪文書:老人と海
2019/12/28 (土) 21:42:15
釣り糸を垂らす。浮きが沈めば引く。
動作として表せば至極単純なはずだが、何故だか、そうした行為には馴染むものがある。
漁労行為における豊漁祈願の祭祀、風俗、特段そんなものを研究で取り上げたこともない。
だから、馴染むも何もないはずなのだが。こうして垂らした釣り糸に引きがあると、微かに微笑みが浮かぶ。
人に言わせれば、これを趣味というのだそうだが。そんなものと自分に縁があるとは、この都市に来るまでは想像もできなかった。
竿を引き上げる。河豚だ。今日はよく此奴が釣れる。はて、河豚とは群れを作るような魚だったろうか。
足元のバケツを見れば、釣れた河豚が5、6匹ほど。時間としては数時間。釣果としては上々だろう。
さて、後はこれをどう処分するかだが。流石に河豚の調理師免許を持つ人員は記憶にいない。
テトロドトキシンを魔術の素材にでもするものがあれば良いのだが、ヴードゥー系の術者は居ただろうか。
…釣った後のこの時間は、我がことながら無為であろう。さっさと海に返せば良いものを、貧乏性が祟っている。
何故、捨てられないのだったか。ふと浮かんだ疑問は、潮の噎せるような匂いに飲み込まれて、消えた。
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