「私のツレになんか用?」
それは単なる気紛れだった。
大通りでチンピラ数人が亜麻色のティーンエイジャーの少女に因縁を付け、良からぬ事をしようとした場面に出会したのだ。
大阪に原爆なんて落ちていないと主張する噂の歴史家…その家に行く為、タクシーを拾おうとした時、偶々目についた。
放っておけば良いと達観する魔術師の自分を心の中で張り倒して口から飛び出たのが最初の言葉だ。
「あぁ? 姉ちゃんのツレぇ?じゃあ姉ちゃんが相手してくれんのか?」
当然のように此方に注意が向いた。件の少女は此方を見て、困惑している。
…まぁそうよね。誰ですか!?とか言わない分空気読んでくれてるわ。
良く見れば背負った竹刀に手を掛けている。チンピラ相手に一戦交えようとしていたようだ、度胸あるわね。
ふと、彼女の指を見ると中々の竹刀タコが無数にあった。友人であるリアを思い出す、彼女も剣タコが幾つも合ったっけ。
「相手する?冗談、チンピラ相手にする程安くないんだけど」
「このクソアマ!」
私の挑発に先頭の一人が激昂して殴りかかってくる。瞬時に思考と感覚を加速。うん、誉めに誉めて喧嘩慣れした素人ってとこね。
加速魔術を使うまでもない。身体強化のみでチンピラの拳を避け、その腕を掴み、捻り上げて間接を極める。
「ガァッ!」
下がった顎に向けて膝を一撃。白目を向いて倒れる。
「……ちっ!」
二人目はそれなりにやるようだ。ピーカーブースタイルで此方に相対する。相手にするにはちょっと面倒だ。
「…スタートアップ」
だから少しだけ加速する。本来であれば5小節必要な魔術だが、友人であるトゥモーイ・ディットィエルトの協力で一瞬の動きであれば1小節で行使できる。
鳩尾に拳を一発、顎に一発、ついでに額にデコピン一発だ。何があったかも分からずボクサー崩れは吹き飛ぶ。
三人目は……既に亜麻色の少女が竹刀で痛い目に合わせていたようだ。トドメに頬をビンタしておこう。
「クソっ!覚えておきやがれ!」
「うっさいばーか!一昨年来やがれってのよ!」
捨て台詞を吐いて逃げるチンピラに石と罵倒を投げる。良し、命中!
「あの……ありがとうございます!」
満足げに振り向くと亜麻色の髪の少女が深々と頭を下げていた。
「いいのよ、気にしないで。 困った時はなんとやらっていうでしょ。それともお節介だったかしら?」
「いえ!そんな事ありません!」
少女は私の少し意地の悪い言葉を慌ててぶんぶんと手と頭を振り否定する。
その様がとても可愛らしい。
「ふふふ、ごめんなさい、冗談よ」
私の微笑みを見て少女は胸をなでおろした。姪の未来と同じくらいの歳かしら。
「私は黒野逸花、フリージャーナリストよ。貴女は?」
「鴈鉄梓希です!」
元気が良い。そして言葉や仕草の端々から育ちの良さが分かる。決して厳戒体制にある大阪で何事か悪さをしようとしたり、忍び込むタイプでは無さそうだ。
「えっと、鴈鉄さん? 貴女はこの大阪でなにをしているの?」
「はい…実は話すと結構長くなりまして……」
それが私、魔術師黒野逸花と少女鴈鉄梓希のはじめての出会いだった。
この時は私と彼女、そしてクエロんの三人に他の子達も含めてあんな騒動に首を突っ込むことになるとは思いもしていなかったんだけどね