kagemiya@なりきり

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クリスマスライブ 2019/12/25 (水) 00:32:28

昔から、この街のこの日は煌びやかに飾られる。
それは自分にとっては至極当たり前の景色であり、彼女から本当はそういうのではないと言われてさぞ驚いたものだ。
だから恐らくは、自分が生まれる遥か昔から続く伝統のようだ。
階層の吹き抜け部に鎮座する途方もなく巨大な樹木には、眩しいほどの電飾が巻きつけられ、
いつもの複合商店では様々な物品―――特に玩具とゲームがセールを始め親子が殺到する。
各居住区においては、家族水入らず、ケーキを囲んで聖夜を祝っていることだろう。
残念ながら、自分はその輪には入れない。
だが、より盛大なパーティーには参加している。
「―――!!皆、ありがとう―――!!!」
玉滴の汗を散らし、マイクを握りしめ直す。6曲目を歌い切り、ステージの熱気は最高潮。もはや先日からの寒波などどこ吹く風だ。

一昨年から始まった、自分とパーシヴァルのユニット「Ars-L」による聖夜ライブ。最初の年は息絶えそうなほどに疲れ果てていたのを覚えている。
肉体もそうだが、心も。思えばこの時期から活動が本格化し、同時に自分の時間の多くは仕事に費やされた。
勿論、都市軍の指揮官も、アイドルも。何れもがいつか王となる自分に課せられた責任であり、その責を放棄することは許されない。
許されない、のだが。それでも。拒否反応を示す心情を隠すことができなかった。
こともあろうにパーシヴァルの前で、泣き出してしまい……恥ずかしいので思い出すのはやめよう。
―――だが、そんな不甲斐ない自分を、パーシヴァルは笑って街に連れ出してくれた。半ば強引に予定をキャンセルし抜け出したのだ。
その間だけは立場を忘れられた。一介の10歳ほどの子供として、求めていた喜びを享受することができた。
故に、その年の聖夜が終わる瞬間を、心から惜しんだものだが―――
そこですれ違った者―――似た年の子供だったかもしれない、その者の顔を見て、唐突に頭が冷えた。
ライブ、楽しみだったのに。と。
―――咄嗟に、歌い出した自分がいた。
パーシヴァルも最初は呆気に取られていたが、すぐに自分に続き、気づいた皆に囲まれてそこが新たなライブの会場となった。
奪われるだけでも、与えるだけでもない。
この聖夜を、この街だけの賑やかなクリスマスを、皆で共に楽しもうと。

「では7曲目!HappyHol(ida)y!いくよー!!!」
「―――と、その前に余はしばし遊びに行く故、皆探しに行くがよい!見事探究を果たした者は最前列でこの歌を贈ろう!!」
「ゆくぞ!騎士パーシヴァル!」

そして、これが第一回から続くお約束。
ラストの曲は梅田のどこか。否、この街全てを会場として歌う。
この街の、全ての人に届くように。

HappyHol(ida)y.Merry Xmas!!

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