聖なる夜。「天王寺」にサンタクロースが現れた、と、都市情報網では話題になっている。
聖ニコラウスが召喚された、或いは該当地域へ現れた、という情報もないから、当然多くの人々が驚き戸惑い、しかしその慶事を喜んでもいる。
事前にカレン・ミツヅリに根回しをしておいたのは正解だっただろう。空への道を断絶した世界も、この細やかな「飛ぶ」という奇跡を許してくれたようだ。
或いは、「この世ならざるもの」としての性質を宿す虚数魔術と、偉大な巫王の呪力による隠匿が、一時的にとはいえ効いたのかもしれないが。
しかし、ともあれこの寒い中、サンタをしてくれたツクシとスバル君、そして彼女にも、労いをしなければなるまい。
という訳で、自身の生活費から負担にならない程度に少しずつ削った金で以て、「難波」で人気のケーキを予約してあったものを引き取ってきた。
普段甘いものを好んで食べるところは見ないものの、土産の菓子などが食卓に出てきた時に顔が緩んでいるのは確認済みだ。きっと子供たちだけでなく、彼女も喜んでくれるだろう。
……と、考えていたのだが。単身ケーキを受け取ってから帰ると、出迎えてくれた三人ともが何やらそわそわしている。
不思議に思いながらも、外からそれとわからないように覆ってあるケーキを取り出して、卓上に並べようとした途端、声が重なった。
「クリスマスケーキを買ってきました」。え、と思って彼女を見れば、ぽかんとした顔で、自分が買ってきたものと全く同じものを、冷蔵庫から出している最中だった。
顎が開いて戻らなくなった。ツクシは目を丸くした。そのまま、些か気まずい時間が流れた。
しかし、スバル君がにこにこ笑って言ったものだから、そのまま、誰ともなく吹き出してしまった。「おそろいですね。なかよしさんです!」
ああ、全く。仲の良いことだ。考えることまで似通ってしまうとは、確かに「なかよしさん」であろう。
結局、今日だけは「デザートのおかわりあり」だということで、各々、食べるだけ食べることにした。
体重を気にしてか、一切れだけで良いと言っていたツクシも、最終的には、スバル君に押されて二切れ目に手を伸ばしていた。
そのスバル君本人もまた、普段とは少しばかり様子の違う健啖ぶりを見せていた。曰く、「みんなでわけてるからへいきです」、とのこと。自分達4人で分けるから食べ切れる、ということだろうか?
そして、彼女も。その所作は、いつもどおりに綺麗で静かなものであったが、いつも以上に柔らかい表情を浮かべていることは、すぐに見て取れた。
「美味しい、ですね?」
微笑むその言葉に、頷く。長らくこんな団欒を囲うことなど、なかったのだが。誰かと一緒に、祭日を祝うというのは、幾つになっても良いものだ。
聖なる夜。もう一人───いや、四人のサンタクロース達は、こうして、静かに時間を過ごしていった。