あつい。纏わり付くような熱気が室内に立ち込めている。
じっとりと汗を帯びたパジャマを拭いながら、現在時刻を確かめる。
カーテン越しに差し込む日差しが指し示したのは「9時」の時計…………やや寝過ごした。
よもや本州の初夏がこれほどまでに暑いとは。
現在の気温は28℃。最近では札幌でもこのくらいの気温まで上がることはあるが、気温以上に蒸し暑い。
湿気が影響しているのだろうか?それとも、この部屋に扇風機以外の冷房器具が用意されていないのが原因か。
どちらにしてもこの暑さは堪える。汗が止まらない。頬を伝うそれを拭いながら、重い足取りで食堂へ向かう。
酷暑が続けばそれだけ替えの服が必要だ。仕方ない、今日あたりにでも衣装を買いに────
「おはようございます、アズキさん。昨夜は随分と暑かったですねぇ、ちゃんと眠れましたか?」
「ふわ……おはようございます。寝苦しくてあまり…………えっ」
寝ぼけた目をこすり、シスターさんを見る。
いつも通りの黒基調な修道服に身を包んで……あれ?
食卓に座るシスターさんの衣装がどこか違って見える。私はまだ寝ぼけているのか?
この視界情報が間違っていなければ、それか私の認識が狂っているのでもなければ……シスターさんは、俗に言う「メイド服」を身に着けているようにみえる。
いや、確かに着てるな。何事もないような雰囲気も相まってつい見逃しかけたが、間違いなくメイド服を着ている。
「……あの、シスターさん。その服って……」
「あはー。この衣装ですか?クローゼットの中に何着か掛けられていたんですよねぇ。
ここの神父さんの趣味なのかはわかりませんが……ちょうどいいサイズだったので試しに着てみました」
なるほど。なるほど?
考えてみればシスターさんも、元々この土地の人ではなく海外から派遣された人員であるという。
となれば衣装も持ち込みで、私のように服の洗濯が追いつかないという事もあるのだろう。
合点が行った。何故メイド服がこんなところに?という疑問に関しては、恐らく有益な答えが得られそうにないのでスルーする。
にしても、この種の服を違和感無く着こなせているのは流石だ。
クラシカルなものでなくフレンチなフリフリメイド服であっても、それが正装であるかの如き気品を漂わせている。
……実を言えば私も去年、文化祭でメイド喫茶を出店した時に着た経験があるのだが……髪色も相まってザ・コスプレといったような有様になってしまった。
そんな事を考えながら食卓に着くと、メイドさ────シスターさんが少し遅めの朝食の準備を始める。
今日の朝ごはんはなんだろう。気がつけば私の中で、毎日の食事が日々の楽しみになって────