後はジェットコースターだ。
何かを思う暇は無い。襟首を掴んだそれが物凄い勢いで私を引っ張る。
直後、火薬庫へ火が点くような激烈な破砕音が轟いたが、その音が私を捕まえて五体を引き裂くよりも襟首を掴んだものは僅かに早かった。
空中に浮きながら引き寄せられるまま吹っ飛ぶ私はいつまでも空中を引っ張られ続けるその勢いからようやく状況を知った。
私を捕まえて引っ張るものが、破滅の余波から逃れようと必死で後退しているのだ。
私を引っ張っているものを目で辿った私はようやくおおよそを理解した。
───ああ、なんということ。
───どうしてあなたが私を引きずっているんですか。
───どうしてあなたの腕がそんな風に伸びているんですか。肘から分かたれて、鎖で繋がって、鎖の先の腕が私を掴んでいるのですか。
───こんなの人間の腕じゃないじゃないですか。アニメに出てくるような、ロボットのロケットパンチみたいじゃないですか。
───こんなの人間の脚じゃないじゃないですか。風よりも速く駆けるその脚の出力はとうに人間らしさから離れているじゃないですか。
───ああ、知っていたけれど。きっと、知っていたけれど。
───あなたは、まともな人間じゃない。
「───も~。アズキさん。迂闊に出歩いてはいけませんって言ったでしょう?」
いつの間にか私は何処かの公園の野原に降ろされていた。
私を襲おうとした猛威は………存在しなかったわけではないらしい。こうして耳に轟音の名残が届いている。
視線を戻す。じゃらじゃらと金属音が響いている。そこで私ははっきりと私をここまで連れてきた者を見た。
肘から先が鎖で繋がった腕がどういう原理か巻き取られている。末端まで至った腕がばちんと繋がり、ここ数日で見てきたものと同じカタチになった。
接続部分を何でも無いことのように見やるシスターさん。明らかに自然な人間ではない。私が思わずしたことというと───
「───っ」
「………っ! わ、わわ。どうしたんです?」
震える膝を打って、よろめく身体を手繰って、その人の身体を抱きしめることだった。
さっきまで何を考えていた? 私らしくもないこと、いや無理やり私らしくさせられたことを考えさせられていなかったか?
恐ろしかった。それがあまりにも恐ろしくて、ただ無性に温もりが欲しかった。
「あ、ぅあ」
胸へ埋めた顔から涙が溢れた。情けなく涙を流すなんて本来なら許せるはずもない。
でも、無理だ。堪えられるわけがない。心がひび割れてその隙間から漏れてしまっている。もう止めようない。
失格だ、私は。でも腕を伸ばし、脚を駆って、人間離れした性能を発揮した彼女の胸は見た目通りにとても温かかった。
「あ、ああ。………あぁぁぁ………っ! クエロ、さんっ、私、わたし………ッ!」
「………。いいんですよ。もうちょっと後にしましょうか。ね。アズキさん」
こんな時にも彼女の言葉は薄っぺらく、そして優しすぎて、私はどの涙を堪えるべきか悩んでしまうのだった。