辿り着いた。辿り着いてしまった。
私は数日を費やしてようやく“戦い”へと至った。至ってしまった。
シスターさんの後を追うこと数十分。夜闇に包まれる大阪の市街へと辿り着いた私へ向けて大きな音が響いてくる。
コンクリートが勢いよく砕け散る、発破の現場でしか聞けないような騒々しい音。
「───」
だが、私はその破砕音へ向けてまるで操られるようにふらふらと歩き出してしまっていた。
正直このあたりの記憶は朧気にしか残っていない。残っていないのが心を守ろうとする私の防衛本能の働きだろう。
この破壊の協奏曲にとあるサーヴァントのカリスマというスキルの効能が乗っていたのは後から知った話だ。
理性も本能もどうでもいい。『この音のするところへと向かうべきだ』という感覚は殆ど洗脳に近かった。
さらに言えば『この音と共に死すならばそれは至上の栄誉である』とさえも。
だからビル群を抜けた先の広場にあったその存在を見た時───私は理由も分からず不覚にも涙を流していた。
かのお方はゆるりと宙に浮いていた。一振りの剣を携え、柔らかい微笑みと共に遍くもの全てを睥睨する。
現代人からすれば奇天烈な格好は、その神々しさに比べればあまりに辿々しく稚拙な常識だった。
視線の先に何かいたようだが、心を囚われていた私にはその人影しか目に映らなかった。
その在り方、その微笑み、全てに感動していた。自分の人生の全てがひどくつまらないものに思えた。
あれだけ執着していた剣士としての在り方さえ目に映った人影に比べればくだらないものに思えた。
宙に浮く方の唇が少しだけ動く。それは欠片さえも自分に向けたものではなかったが、それを目の当たりにしたことだけでも恐悦至極に感じた。
そうか。死ぬのだ。これからあの方が剣を振るい、その余波で私は死ぬ。なんて素晴らしいことだろう。
あの方の手にかかって死ぬならばこれほど最上の在り方はない。だから死ぬべきだ。よし、このまま死のう。
………正気ならば絶対にあり得ないそんな思考を私は受容し砕け散ろうとしていた。
宙に浮く人影に比すれば戯れのような敵意を向けて抗しようとする地上の人々のことなど目に入りもしなかった。
ただ、そのサーヴァントに殺されるために頼りにしていた竹刀さえ抜かず自分の終わりを迎えようとしていた。
凝視していたそれが剣を振り抜くのよりも───私の襟首を“何か”が捕まえるの。
時間にしてコンマ5秒ほど。だとしても、後者のほうがギリギリ早かった。