「「………あっ」」
瞬間、私の中でぱちんと音がした。ブレーカーが落ちた音だった。
1度あったことは2度目もある。なら3度目もあるのだろうか。私には分からない。
だが少なくともシスターさんはそこにいて、そして昨日よりも状況は悪化していた。
修道服を着ていないシスターさんを私はその時初めて見た。というより、何も着ていなかった。
真っ白な裸身が脱衣所の電灯によって照らされ、あたかもシスターさん自身が輝いているようだった。
その身体を下着が包んでいる。黒である。あまりにも黒でありブラックであった。肌とのコントラストが潮目のように境界を際立たせて優勝していた。
レースのついた大人っぽい下着だけでも破壊的なのにシスターさんは更に得物を身に帯びていた。
ガーターベルトである。14年と少し生きてきて初めて見た。ガーターベルトである。
黒いガーターベルトが真っ白なニーソックスを吊っていた。下腹を覆うレースも太ももを這う吊り紐も人を惑わせる悲しき兵器だった。
核弾頭である。幻の不発弾はここにあった。放送はやっぱり嘘じゃなかったのだ。
昨日にみたいに咄嗟に謝るとかそういう次元にない。私はただぽかんと口を半開きにして見惚れてしまっていた。
頭の中はまさにリオのカーニバル状態だった。行ったことないけど。
「あらら。もしかしてこれからアズキさんも使います?」
「え、あ、はい」
何を言っているんだろう私。他に言うべきことがあるんじゃないのか。
謝って脱衣所の扉を閉めるとか………ええと、謝って脱衣所の扉を閉めるとか。
呆けてロボットみたいな返事しかしない私に対し、シスターさんは気にするでもなく名案を思いついたかのようにぽんと両手を合わせて言った。
言ってしまった。
「あはー。私もこれからシャワーを浴びようと思っていたのです。
一緒に入りませんか? 汗をかいたままでいると風邪を引いてしまいますし、ここのお風呂は無駄に広いんですよ」
「え゛」
何を考えてこんな設計にしたんですかねぇ、分かりませんねぇ、とのんびり答えるシスターさん。
対する私はというと頭の中のブレーカーを上げようと試みるのだが何度やってもうまくいかない。
どうなっているんだ。剣道の修行で鍛え上げてきた鋼の精神はどこに行った。まさかこんな時に限って有給申請してリオに旅立ってしまったのか。
そうこうしている内に私の手首は半裸のシスターさんに優しく握られてしまい、ここに命運尽きたのである。