剣道少女のヘアセット(Another View)
2022/05/09 (月) 01:37:30
「綺麗な亜麻色の髪ですねぇ、地毛ですか?」
何か特別な意味合いを込めて言ったわけではなかった。
そもそもクエロの心は壊れてしまったきり元に戻らないガラクタの心だ。
笑顔を作っても心の底から嬉しいわけではない。悲しい顔をしても心の底から悲しいわけではない。
何とか間に合わせの態度を繕っているのが薄気味悪く気持ち悪い、出来損ないの人格。
本当は他人へまともな共感もしていないくせに、さも当然のように人々の中にいる自分をクエロははっきりと嫌っていた。
それでも隙間から溢れるものを拾い集めて自分の感情を見出している。
そんな体たらくだから言葉に複雑な意味合いなど込められようもないのだ。
だから結果としてそれはとても素直な感想だった。
綺麗な髪だと思った。淡い発色の珊瑚のような色をした、艶やかな髪。
年齢相応の瑞々しさに満ちたそれを指に取る。これが義手であるのが惜しかった。
この義手は触感を情報として教えてはくれるが『触感』そのものを伝えはしない。
きっと、心地よい手触りだろうに。
「えっと………そうですね、お母さんがフランス出身なので………」
俯く梓希の声の微熱をクエロは察知できなかった。
そうなのですね、と相槌を打った。櫛を髪へと入れていく。
壊れた心に微かな温もりが宿る。手を止めずにクエロは理由を熟考し、梓希へ構うことに快楽を見出しているらしいと結論付けた。
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