「あのぉ………どうして見ているんですか?」
「いけませんか?あなたが剣を振る姿が綺麗だったので見惚れていたのです」
「き、キレイですか。ありがとうございます………」
そう言われると嬉しくなってしまう。同時に少し照れ臭くて頬を掻いてしまった。
「体軸が全くぶれませんね。余程鍛錬を積んできたのでしょう」
「えへへ。剣道は小さい頃からずっとやってきたんです。ちょっとは自信もあります。
この前の大会では優勝したんですよ。それで全国大会に出ることになって、大阪に来てこんなことになっているんですけれど………」
「なるほど。そうだったのですね」
シスターさんは笑顔で私の話を聞いている。
………相変わらず妙に薄っぺらく感じる表情だ。嘘臭いというわけではないのだけれど。
気を取り直してシスターさんから視線を切り、稽古に戻ろうとしたその時だった。
───あ、面を打たれる。
物心ついた頃から剣を振ってきた身体が先に反応した。
降り落ちてくる剣へ応じて咄嗟に足を捌き、右にステップして面抜き胴を打つ。
避ける動きで敵を斬る。何度も練習して身体に染み付いた、攻防一体の得意技だった。
………と、身体を動かしてから頭がようやく追いついてきた。
腕に相手を打つ手応えはない。竹刀は何もないところを薙いでいた。
その先ではシスターさんがさっきまでと同じように棒立ちで立っている。
なんで今、私は面を打たれると感じたのだろう。
心がざわざわする。物凄い重圧だった。師範に本気で打ち込まれる時、いやそれ以上。
泰然としているシスターさんへ私は思わず尋ねてしまった。
「ええと………シスターさんって…もしかして、何か武術とかやってたりします………?」
シスターさんはくすりと笑って言った。
「あはー。さて、どうでしょ~?」
………薄々分かってきた。親切なだけの人では、どうやらないらしい。