剣道少女のヘアセット
2022/05/07 (土) 14:32:28
他人に髪を触られるというのは、何とも言葉にし難い感覚だ。
丁寧に梳かれ、洗われる。細くしなやかな指の触感が妙に鮮明に感じられる。
同性ではあっても、これほどの至近距離に人がいるというのは……いつになっても慣れないものだ。
「綺麗な亜麻色の髪ですねぇ、地毛ですか?」
ふと、シスターさんが問い掛けを零す。
それは私の髪色に対しての疑問。思いがけない言葉に少し思慮を巡らせ
「えっと……そうですね、お母さんがフランス出身なので……」
とはいえ、ママは5歳の頃に家族とともに北海道へと渡り、その後の人生を日本で過ごした。
血筋としてはハーフだが、ママからそれらしいものを感じたことはないし、フランスに足を踏み入れたこともない。
色濃く受け継いだこの亜麻色の髪も、日常生活では周りから浮いて見えるものであり……正直なところ、あまり好きではない。
赤色のインナーカラーを入れたことも、目立つ髪色に対しての反発心から来たものだった。
そんな私の髪色を眺め、この人は「綺麗だ」と言ってくれた。
何の毒気も含みもなく「綺麗だ」と。
……何気ない一つの言葉が、妙に心に残り続ける。
人生で初めて投げ掛けられたその言葉に抱くのは、緊張……動揺、或いは喜び。
我が心の乱れに比例するかの如く、動悸がだんだんと早まっていく────背後のシスターさんにも、心臓の音が聞こえてしまいそうな程に。
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