「その様子ですとまだ自分の身に何が起こったのか分かっていないようですね。
大変残念ながら、あなたは巻き込まれてしまった身分なのです。
こうして寝込んでいるのだってあなたが彼らの戦いの余波で不運にも吹き飛ばされてしまったからに相違ありません」
………分からない。彼女が何を言っているのか。
ぼんやりと朧気な意識のままに彼女を見上げる。視線が合った。
そうして彼女は穏やかに笑った───他の人は怖いと言うその眼差しを、その時の私は安心できると感じたのだ。
「大丈夫。安心してください。ひとまず私の元にある以上あなたの無事は保証します。
迷える者を救うのは主の御心に従えばこそ。詳しいことは、あなたの意識がはっきりとしてからにしましょう」
そう言って女は私へ向けてにこりと微笑んだ。
それで少なくとも安心できた。今から思えば、その笑顔はどことなく薄っぺらな印象を帯びたものだったかもしれない。
しかし更に言えば、その薄っぺらで簡単に裏へとひっくり返りそうな表情の裏にひっくり返るものが無い。
つまり、そもそも裏表に返るものがないもの。そういうふうに本能が感じ取っていたのだろう。
だから、全身に負った傷のためにろくに喋ることもせず眠りへと誘われ始めた。
然と目覚めるにはまだ早かったと、そう告げるかのように。
「もう暫しお休みなさい。次に起きたならば話すべきことはその時に。
───やれやれ。日本のこうした避難措置は優秀だと聞いていたのですけれどもねぇ。取りこぼしはあるということですか。
ああ、急に私の責務が面倒になった。………とはいえ、これも聖務。都合はつけねばなりませんか」
私の知らぬ間にシスターはそんなぼやきをしていたが、全て私の知らぬことだ。
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