覚醒する意識。
まず感じたのは痛みだった。自分が浮かび上がるにつれそれは全身からずきずきと傷んだ。
ただ救いだったのは痛みこそすれ、眠りの淵へ再び沈むこむことを許容するほどの痛みではなかったことだ。
それで全身を襲う痛みが自分の行動を妨げるものではないということに確信が持てた。
ただありがたかった。自らが修める剣道において相手の激烈な打ち込みで一瞬意識が飛ぶなどよくあることだ。
原因が痛みでこそあれ意識をきちんと確保できている。少なくとも失神したままであるよりはマシだった。
だから、少しずつ目を開けた。
「………っ」
つい呻く。身体を襲う痛みと、瞼を広げて外界を視認する痛みに依って。
目に入ったのは味気のない簡素な白い天井だ。のっぺらぼうに端まで広がっている。
それがどこかを悟ることはできなかったが、一方でその天井からは何らかの秩序が感じ取れた。
少なくともある程度の常識の下で自分は寝かされている。そういう認識が持てた。
「………あはー。もうしばらく寝込んだままと踏んだのですけれど。頑丈ですねぇ、あなた」
ドアが開く音と、どこか間延びした人の声と、それらが混ざって聞こえたのはその頃のことだ。
「っ、ぁ………っ」
「無理に喋らなくていいですよ~。五体無事ではあれ吹き飛ばされて全身打撲には違いありませんから。
まぁ、打ちどころ自体は良かったようですけれども。受け身の技術とか習っていました?」
まだぼんやりと霞を帯びる意識の中で、開いた視界に映る女の姿があった。
───かの宗教に関してさして詳しい訳では無い。
けれどその浅薄な知識であっても彼女がその宗教に携わる人物だというのはすぐに読み取れた。
特徴的な法衣が理由だ。いわゆる修道女らしい服を着ている。
まだ意識が朦朧とする私の側で、大して減っていない水差しの水の量を確かめながら女は言う。